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千晶の裸体に誠也の足の爪が食い込み引っかかりそれを繰り返してまた小さな傷をつけた。
痛い、怖い、どうして、ごめんなさい、許して。
初めは言葉として形を持っていたものも、やがてただの泣き声に変わった。
誠也には届かない。でも何か叫んでいないと自分が壊れそうだった。
やがてその声も掠れて消え、涙だけが頬を伝った。
痛みに意識が薄れ壁の一点を見つめる。
ふと、佳澄の顔が脳裏に浮かんだ。
佳澄と過ごした時間に戻りたい。あの時、佳澄の手を握り返していたら何か変わっていただろうか。
佳澄に会いたい。
そう思った瞬間、涙が再び頬を伝った。
誠也は満足し千晶の髪を離す。
力なく倒れ込む千晶。
誠也は部屋を出た。その音に安堵する。
これは天罰なのか。自分を愛する夫を裏切り、他の者と体を重ねた罪。
昨日に戻りたい。もう一度佳澄に会いたい。
もし昨日、佳澄に夫のことを伝えていたら何か変わっただろうか。
今日、去り際に佳澄の手を握り返していたらこうならずに済んだだろうか。
後悔が再び押し寄せ、千晶の涙を溢れさせた。
足音が聞こえる。
千晶の淡い期待と過去への後悔は一瞬にして消え去り、痛みが現実を突きつける。
部屋のドアが開いた。
自分の元へ早足で近づく音。千晶の体が恐怖に震えた。
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