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女性が振り返った。
やっぱり。
「もしかして、安藤先生·····ですか?」
佳澄がそう声をかけると女性は驚きと混乱の表情を浮かべた。
「人違いだったらすいません·····でも、あの、たぶん」
佳澄は女性の反応に急激に自信を失った。しかしここまで来て後戻りはできまいと思い、思い切って口を開いた。
「安藤千晶先生ですよね·····?」
女性はしばらく目を伏せていたがゆっくりと佳澄に視線を向けた。
「もしかして·····月島さん·····?」
女性にしては少し低い声。
佳澄を真っ直ぐ見つめる千晶は当時より痩せてさらに綺麗になっている。佳澄は胸の鼓動が早まるのを感じていた。
暗い店内でぼんやりと浮かぶ千晶の顔。
「お久し·····ぶり·····」
そこまで言うと、千晶は佳澄の方を向いたままの体勢でふらつき、そのまま佳澄の胸に収まった。
「え!?先生!?」
千晶を受け止めたままの体勢で困惑する佳澄。
「佳澄ちゃん大丈夫?」
驚いたマスターが駆けつけてくる。
「あー、このお客様もう寝ちゃってるね。まあ入ってきたときだいぶ酔ってたし」
マスターが苦笑いする。
自分の腕の中で気持ちよさそうに眠る千晶を見る。
「私今日早く上がってもいいですか?この人知り合いで·····」
「いいよ。なんなら今からでも」
「ありがとうございます!」
今日ほどマスターの優しさに感謝した日はないだろう。店のお客様の注目を集めながら千晶を抱えて裏に入る。
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