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素早く着替えて店を出る。マスターがタクシーを呼んでいてくれたおかげですぐに乗ることが出来た。
運転手に自宅の住所を告げる。
千晶の荷物を漁り自宅を特定して送り届けるという選択肢もあったが、それは気が引けて出来なかった。
シートにもたれて眠る千晶を見て佳澄は改めて自分がとんでもないことをしてしてしまったと実感した。
当時より痩せてはいるものの、肌の白さも、鼻筋も、まつ毛も、唇も、ほとんど変わっていない。
というよりむしろ、歳を重ねることで美しさが増していた。
できれば昼間、街中で出会いたかった。
そんなことを思っているうちに自宅についた。
千晶を抱えてタクシーを降り、オートロックを解除してエントランスに入る。
「·····んっ」
そこでちょうど千晶が目を開けた。
「あ、おはようございます」
「··········あなたは?」
さっき自己紹介したばかりなのに。
そう思うものの佳澄はそんな千晶を可愛らしく思い微笑んだ。
「月島佳澄です。忘れたとは言わせませんよ、安藤先生」
「ああ、そう··········」
それだけ言って千晶は再び目を閉じた。
ふらふらしている千晶を連れて自室に入る。最近引っ越してきたマンションはお世辞にも広いとは言えず、家具も必要最低限のものだけだ。質素な部屋の中で大きな部分を占めるベッドに千晶を寝かせ、佳澄は大きく伸びをした。
時計を見るともう0時半を回っていた。
そうたにフラれてからもう一時間近く経っていた。
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