溶かして解けて

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溶かして解けて

「雨酷いから気をつけて帰るのよ」 「はい」 BARからの帰り、セリがそう声をかけてくれた。 梅雨はまだまだ明ける気配はなく今夜も土砂降りだ。雨混じりの湿った風が手足にまとわりつきとても気持ちが悪い。 早く家に帰ってシャワーを浴びたい。佳澄はそう思い足を早めた。 千晶の家を訪れてから2週間ほど経ったが、千晶からは何の連絡もなかった。やはりあの別れは"もう二度と"ということだったのだろうか。 だが佳澄は前ほど気落ちしてはいなかった。 セリからの助言により、自分が千晶に思い入れをしすぎていることに気づいたのだ。思考は千晶ばかりになっていて、それ以外のことを考える余裕が無くなっていたと。 経験が無いなら、いつかこの経験を何かの糧にできるように向き合うしかないのだ。 今の佳澄は千晶に焦がれた過去の自分を受け入れ、それなりに前を向いている。 電車に乗り景色を見ていると千晶の家からセリの所へ向かっていた時の気持ちを思い出す。そんな自分を未熟だったと思えるだけ成長したのだろう。 電車を降りて改札を出る。時刻はそろそろ日付を越えようかとしていた。 明日は二限からだから余裕はある。 傘を差して歩き出した。マンションまでは歩いて10分ほどだ。 ふと、千晶のことが頭に過ぎった。 今、何をしているだろうか。 雨に風も加わって何やら不吉な予感がした。 佳澄は少し足を早めた。 佳澄のマンションの斜め前には公園がある。駅からマンションに行くにはここを横切るのが一番早い。 ブランコや滑り台、シーソーなどの遊具が雨に濡れなんだか寂しげだった。 いつも誰かが腰掛けているベンチも。 佳澄はふと足を止めた。 弱々しい街灯の光を浴び、何者かの影がベンチの下に伸びている。 それが人で、女でだと気づくのにそう時間はかからなかった。 佳澄は自分が幻を見ているのではないかと思った。 雨の中、傘もささずに千晶はベンチに座って呆然と闇夜を見つめていた。 佳澄が近づく気配を察すると、千晶はゆっくりと顔を上げた。 夢でも、幻でもない。 そこにいたのは千晶だった。 「ちあき、さん··········」 佳澄が名前を呼ぶと千晶はふらりと立ち上がった。 自然と佳澄は自分が差していた傘を千晶の方に傾ける。髪や服はびっしょりと濡れ、虚ろな瞳からは何も感じられなかった。 家用のサンダルにこの前訪れた時と同じエプロン。 千晶は家のままの格好でここに来たのだ。 そして、家で、いや誠也との間で何かあったのは自明のことだった。
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