300人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく見つめあった後、千晶はすっと目を閉じた。
お互い何も言わなくてももうわかっていた。
佳澄は顔を寄せ千晶の唇に自分の唇を重ねた。
そのまま千晶をぐっと抱き寄せる。千晶は腕を首に回しそれに応えた。
唇を離したのに、キスは終わったのに2人はまだそれが続いているかのような気分だった。静かに見つめ合いまた重ねる。
そこに相手がいることを確かめ合うように何度も、何度もキスを続けた。
千晶の中に入ろうと思えば入れたが、今はただその存在を感じたかった。
「もっと、会いに来ていい?」
純粋な瞳で千晶が尋ねた。
「ええ、もちろん」
佳澄は優しく答えた。
「私はいつでもここにいますから」
いつか千晶に言った言葉と同じことを言った。だが千晶はそれに気づかず嬉しそうに微笑む。
「·····じゃあ、今夜はもう帰るわ」
「え?」
するりと千晶の腕が離れた。今は午前2時だ。
「今からですか?」
「ええ。あの人が待ってる」
寂しげに笑って千晶は言った。自分から離れようとするその腕を掴んで引き寄せた。
すとん、と千晶が自分の横に戻って来る。
「あら、帰さないつもり?」
佳澄のわがままを見抜いた千晶が指で佳澄の短い髪を弄びながら意地悪に言う。
その表情にドキッとした。
「服が乾くまで、っていうのはどうですか?」
自分の髪に触れていた千晶の指を自分のものに絡め佳澄は言う。そのままゆっくりと千晶をソファの上に押し倒した。
「いいわ、でも」
近づく佳澄の顔に指を添えて千晶は笑う。
「キスより先はだめよ。あの人、匂いに敏感だもの」
「それは残念です。千晶さんに触れられないなんて」
「それが全てじゃないでしょう?」
2人はかつてのように笑いあったが、その奥にはもう友人どうしのような無垢なものは無かった。
もう、本当に戻れない。
最後の選択地点はとっくに過ぎていた。
最初のコメントを投稿しよう!