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白昼夢
2人が体を動かす度にその容積に耐えきれず湯がこぼれ落ちる。自分に体を預けもたれかかる千晶を後ろから抱きとめながら、佳澄は千晶の横顔に唇を寄せた。
くすぐったいとばかりに顔を逸らす千晶。その千晶の頬にキスをすると佳澄は口を開いた。
「千晶さん狭くないですか?」
「そうね、狭いわ。」
冗談めいた調子で言う千晶。
乳白色の湯の中で千晶の体を優しくなぞる。数週間前より痣や傷は減ったが、それでも痛々しいものは残っていた。千晶の方は安心しきっていてたまに佳澄の指先を捕まえたりして遊んでいる。
「あ、そうだ·····」
佳澄の脳裏にあることが過ぎった。
「どうしたの?」
「お風呂、一緒に入っても大丈夫なんですか?匂いが·····」
千晶の話によると前回泊まったとき、誠也は千晶の匂いが違うことから誰か別の人間のところに行っていたと疑ったそうだ。
その理屈でいけば、今こうして一緒に風呂に入っていることもかなり危ない気がする。
「大丈夫。今家のシャンプーとかボディソープを佳澄の家のやつと同じのに入れ替えてるところだから」
佳澄の方に顔を向けて千晶は笑った。
千晶が会いに来るのは週に一回。
主に佳澄の授業が無い日や昼間から授業がある時だけだ。4時には子供達を迎えに行かなければならないとかで遅くとも3時半には佳澄の家を出る。
あの雨の夜から数週間、千晶と佳澄はそうした逢瀬を重ねていた。
一緒に料理を作ったり、ただ喋ったり、お風呂に入ったり、体を重ねたり。2人は母娘のような、姉妹のような、恋人のような関係を続けていた。
「さすがです」
「私も大人だもの」
千晶は体の向きを変えて佳澄の方に向き直った。風呂場の中なのだからもちろん何も身につけていない。狭い浴槽の中だからベッドの上より2人の体は密着し、それが気分を高揚させた。
顔を近づけると千晶は自然と目を閉じる。安心から来るとても穏やかな表情。佳澄は千晶のこの顔が優しくて大好きだった。
千晶の唇に何度か触れた後、ゆっくりと舌を這わせた。
初めは少し躊躇っていた千晶も最近では自分から求めてくるようになった。
「·····んッ··········っ」
風呂場では声が反響する。千晶の声や吐息がいつにも増していやらしく聞こえた。
「·····上がりますか?」
「このタイミングで?」
もの惜しげな千晶の視線がどうにもいじらしい。少し拗ねたように尖らせたその唇にもう一度キスをした。
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