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「続きはあっちがいいでしょう?」
唇を離してそう問うと千晶はそうね、と笑って頷いた。2人で風呂に入ると大抵こういう流れになるだ。
バスタオルで千晶の体を拭く。消えかけている痣が大半だが、新しいものもいくつか目に付いた。
千晶が痛くないように優しく拭きあげる。
「最近はあんまり殴られないの」
佳澄の体を指でなぞりながら千晶が呟いた。
高校時代水泳部だった佳澄の体には今も若干の筋肉が残っている。
くすぐったいとばかりに身を捩ると千晶が指をさらに動かした。
「仕事も上手くいってるみたいだし、子どもたちも落ち着いてるし」
千晶の体を拭き終わったバスタオルは千晶の手に渡り、そのまま佳澄の体を拭く。
「ほんと、綺麗な体してるのね·····」
惚れ惚れしたように千晶が漏らす。佳澄の体の中で千晶のお気に入りは背中だった。特に肩甲骨やその辺りが好きなようでよくそこにキスをされる。見えない所だし手も届かないけれど千晶にされるなら嬉しかった。
「今は泳いでないの?」
「ええ。友人の付き添いで軽音とバドミントンのサークルに入ってます」
友人とはほのかのことである。
「·····あなたの泳いでる姿、実はたまに見てたのよ」
「えっ」
驚いて千晶を振り返ると、千晶は"先生"の顔をしていた。
「頑張れば準備室から見えるの。でもあんまり見てたら他の部員に見つかるでしょ?」
懐かしいとばかりに微笑む千晶。その顔に高校時代の想いが蘇り胸の奥が締め付けられた。
千晶に密かに片想いをしていた、あの頃。
「綺麗でね、見てるとあっという間だったわ」
当時の千晶が佳澄に対しそういった感情を全く持っていないのは絶対的なことだ。だとしても、自分が千晶の目に留めてもらえる存在だったということがとても嬉しかった。
当時の佳澄が知ったら、きっと喜びで飛び上がるだろう。
「佳澄どこかなって、探すの楽しかったの。水着着ちゃったら見分けつかなくなるけど、でもだんだんわかるようになってね」
かつてを回想する千晶は本当に楽しそうで、それを見て佳澄も笑みがこぼれた。
「だから、気づいたらあなたの姿を目で追ってたわ。」
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