見える傷

2/5
前へ
/134ページ
次へ
「あっ、おはようございます!」 人物は千晶を見てぱっと笑顔になった。 短い髪からは水滴が垂れ、首から下げたタオルを濡らしていた。笑うと八重歯が覗きその爽やかな風貌に無邪気さを加えている。 首からタオルを下げ半袖に半パンというラフな格好。 風呂上がりだろうか。 「お水持ってきますね」 人物はそう言うとそそくさとドアの向こうに消えていった。 そして直ぐに水を持って帰ってきた。 「どうぞ」 体を起こし差し出された水を飲む。 食道を伝ってぬるい水が自分の体に入っていくのを感じる。 「·····あの、あなたは」 昨夜のことを全く覚えていない訳では無いが、彼女のことに自信が持てず千晶は問いかけた。 「それきくの2回目ですよ、先生」 千晶から空いたコップをうけとりながら、彼女はまたも無邪気に笑った。 「月島佳澄です。高校の時先生には大概お世話になったはずですが」 月島、佳澄。 その名前を反芻しているうちに、千晶の脳内にある生徒の顔が思い浮かんだ。 姉妹のように慕い合い、甘え、誰よりも打ち解け合った歳の離れた友人。 それが千晶にとっての佳澄だった。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加