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daily怪異
インターホンが部屋に鳴り響き、思わず肩を震わせる。二人で夕飯を楽しく作り終えた頃合だった。テーブルには赤い食器が並べられている。
「鍋テーブルに持っていって。私出てくるから。」
「りょかーい」
エプロンを着けたまま玄関のドアノブに手をかける。冷たい夜の空気が料理の熱で火照った体に心地よい。出迎えた相手は相当疲れているようで、着けていたマスクを外して玄関へ音を立ててなだれ込んだ。鍵を閉めなだれ込んだ相手を見やる。艶々の黒髪がさらさらとやつれた顔にかかっていった。赤いスカートから少し浮腫んだ細い足が見え隠れする。
「ねぇ……私、綺麗?」
「はいはい綺麗綺麗」
「本当に?今日新しいファンデーションつかったのに、誰も褒めてくれなくて……高かったのに……」
「ご飯冷めちゃうから、早くメイク落として着替えてきてよ。その後ゆっくり聞く」
「うん……わ、今日もいい匂いだね、お腹空いちゃった」
料理の香りに気がつくとむくりと起き上がり、上機嫌に洗面台へと向かっていった。高身長の彼女、口裂け女はOLをしている。所謂社蓄だ。彼女を見送ってリビングへ近づくと、出汁のいい匂いが勉強で疲れた頭を癒してくれた。幸せを感じる物質がこれでもかと出ている気がする。緩んだ口元を隠さずに嬉嬉として指定席へと着くと、程なくして口裂け女、口さんもニコニコとしてやってきた。ここが唯一の安らぎの場所らしい。家族ではないが、こうして三人で食卓を囲んで話をするのがとびきり楽しい時間でもある。いただきますを各自で口にすれば、すぐに宴が始まる。
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