そんな奇妙な髪の話

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そんな奇妙な髪の話

 ある日、頭に毛が生えた。  と言っても禿げていた訳じゃない。普通に生えている髪から一際長い髪が頭頂部に生えてきたのだ。しかも三本だけ……。  何の冗談かと切ろうとしたが、何とこの髪動くのだ。  小一時間程悪戦苦闘しようやく切ったが、翌日には六本になっていた……。  ウネウネと動く髪に恐怖を覚え医者にかかろうと考えたものの、どう見ても普通じゃないので躊躇ってしまう。  何らかの新種寄生生物……或いはエイリアンだった場合、私は国の機関で解剖されてしまうのではないか?などという妄想を振り払えない。  このままでは会社にすら通勤出来ないので毎朝の苦闘と散髪が日課になった。  そして一月が過ぎた頃、自分の行動が誤りだったことを改めて理解する。 「ヤベェ……」  今や頭髪の内大部分を占めた動く毛髪。これはいよいよ観念するしかない。  意を決し医者の診察を受けることになったのだが……。 「今日はどうしました?」 「はい……あの……髪の毛が変で……」 「?……薄毛でお悩みですか?そんな感じはしませんが……」 「いえ……。髪の毛が動くんです」 「髪が動く?それは普通じゃないですか?」 「いえ……。『動かせる』じゃなくて『動く』んです。勝手に」 「………。取り敢えずレントゲン撮ってみましょう」  そして結果は……。 「何もありませんね。頭皮も骨も異常は見当たりません。敢えて言うなら伸ばしすぎかとは思いますが……」  髪が肩まで伸びすっかりロン毛になった私は、余程似合っていないのか医師に鼻で笑われた。  結局、精神的な幻覚の類いではないかと大病院の精神科を勧められた。  『コノヤロウ、二度と来るか』と心に誓って帰宅。独り暮らしのアパートで鏡を改めてみれば髪が小躍りしているがごときだった……。  そもそもこの髪……診察中一度も動かなかった。  ……もしかして意思があるのだろうか?考えてみればシャンプーしている間は大人しかった気がする。  私は馬鹿らしいと思いつつも髪に語り掛けてみることにした。 「もしかして、お前は意思があるのか?」  すると髪は大きくマルを描く。改めてみると奇妙な光景以外の何ものでもない……。 「何で動ける?俺に何をさせる気だ?」  髪は頭上でクエストマークを展開。一体何のコントだ。 「俺に危害を加える気は無いのか?」  またもやマル……。どうやら敵対の意思はないらしい。 「と言ってもなぁ……。お前が動くと色々ヤバイんだ。せめて家以外では大人しく出来るか?」  マル──。どうやら共存する気はあるらしい。 「良し。じゃあ、今後は互いを尊重しよう。俺はお前の為にシャンプーをしてやる。それで良いか?」  今度はバツ……会話が出来ないのは不便だ。  そう考えていたら髪の一部が棚を指し示す。ああ……成る程。 「コンディショナーとヘアトニックか……。良かろう。手を打とう」  髪は側頭部でサムズアップの様な形状をとった。やめろ……縄文人みたいだろ……。  こうして私と『奇妙な髪』の共同生活が始まった。  それからの日々は……割と充実している。  通勤時はオールバックにして髪を背に隠す様になった。上司いわくギリギリセーフらしい。  以前よりサラサラヘアになった違和感があるものの、まぁ将来的には禿げないのでこれも良いかと考えている。  最近、髪は文字を覚えた。意志疎通は楽になったが髪のケアの注文が増えたことは言うまでもないだろう。  髪の正体はどうでも良くなった。コイツは今ではすっかり相棒なのだから。
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