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「もしもし? お帰り~。あ、アレ届いた?」
のんきな、でも温かみのある声に迎えられ、無意識に頬が緩む。
「うん、何、これ」
「ちょっと今から説明するから、言うとおりにやってくれる?」
リョウはそう言うと、届いたものの開封から丁寧に指示を出し始めた。
気づいたら、パソコンでテレビ通話ができるようになっていた。
「何だよこれ」
「ほんじゃ、かけるよ~」
「ちょっと待ってって。誰もやるなんて言ってない」
声は聴きたいと思っていた。こうして話していると心が落ち着くのが嫌でも自覚できてしまう。でも、そこに視覚が入ると話は別だ。
「なんで~? 顔も見たいやんか」
「だらしないカッコしてるし」
「会うてる時だってやんそんなん」
図星をさされてしまって、言葉に詰まっていると、慣れない音が。
「パソコン画面の通話ボタン押して!」
どうやら強行に出たようだ。どうしようか、出ないでおこうか。
「当分会いにも行かれへんねんもん……せめて顔見て話させて」
押し殺すような、振り絞るような切ない声色を聞かされ、これ以上断れるはずがなかった。
「ごめんな、わがまま言うて」
パソコン画面に愛しい人が映っていて、語りかけてくる。おかしな感覚だ。それになぜかいやに緊張してしまって、いつも以上に何も話せない。
「何してたん?」
「試験勉強」
ふふっ、と画面に笑われる。
「なんだよ」
「なんでこっち見てくれへんの」
「っ、別に」
「恥ずかしいの?」
「違う」
「んもぉアヤたん可愛い」
「切るよ」
アヤがヘッドセットを外しにかかっている。少しからかいすぎたみたいだ。
「ごめんごめん! もう言わへんから! 待って!」
リョウの懇願により、アヤはあからさまな仏頂面で大きく息を吐きながらではあるが、ヘッドセットを外そうとしていた手を止めた。
その後は溜め込んでいた話をリョウが一方的に喋り続け、アヤは聴いているのかいないのかわからないような相槌を適当に打っている、そんな時間がしばらく続いた。
「アヤ……退屈?」
「ん」
「俺と話してんの、ちっとも楽しそうじゃない」
正しくは、『俺と』ではなく『話しているのが』楽しくないだけである。もともと会話が苦手なのだから。喋るのが好きでなければ人の話にも興味がない。さらにはこの、画面越しの通話。慣れない上にひどく居心地が悪い。
「ん……どちらかと言えば」
それを正直に相手に伝えてしまうのが、この男なのだ。
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