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涙が出た。アヤの方から会いたいなんて言ってきたのは、もしかしたら初めてなんじゃないだろうか?笑顔が上手く作れなくなって、リョウはたまらずパソコンの前から去ったのだった。
「リョウ」
席を外すと言ってあるのに、アヤが話しかけている。
「そこにいたままでいいから、聞いて」
「うん……」
「リョウと話すのがつまらないんじゃないから」
「……」
「ただ苦手な会話だけをしないといけないのが、苦痛で」
一緒にいられれば、会話なんてなくてもいいのに。ただくっついて、互いの体温を感じているだけで、満たされるのに。リョウが見えないとところに行こうとしても、腕をひっつかんで止めることができるのに。
「会えなくて、つらいよ」
「え……?」
思いも寄らない言葉だった。会いたいと思っているのは自分だけ、だからあまりうるさく会いたい会いたいと言ってはいけない、と日頃から思っているだけに、アヤからの言葉は意外だった。
「つらいの? アヤも?」
「そりゃ、ね。気持ちいいこともできないし」
「そればっかりか」
「冗談だよ」
「アヤが言うたら冗談に聞こえへんわ……」
長い間会わないことに慣れてはいても、次に会える日は自分たちで決めることがでいた。こんなふうに、自分たちの意思に反して、しかもいつまで続くかわからないおあずけを食らうのは、遠く離れたふたりにはあまりにもつらいものだった。
「早よ会いたいな」
「久しぶりに聞いた、それ」
「言うたところで会えるわけでなし、あんまり言うたらあかんと思って……でも、いつも思てるよ」
「うん」
「早く会って、触りたい、俺のアヤに」
「そうだね」
目を閉じて、愛する人の温もりを思い出す。温もりだけではない、ふわふわとした髪に触れたいし、吸い付くような肌にも触れたい。今聴こえている声だって、今見えている顔だって、機械を通すと通さないとでは違う。
そんな回想に耽っていると、
「じゃあ……切る、わ」
アヤがただでさえ言葉数が少ない上に、物思いに耽ってほぼ無言になっていたせいで、会話を終わらせたがっていると思ったようだ。けれども会話が苦痛なのは残念ながら本心であり、アヤはこの機会に通話を終わらせてもらうことにした。
「うん」
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