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引き留めて欲しい気持ちがなかったと言えば嘘になる、けれど期待もしていなかった。アヤがこういう場面で引き留める男ではないことは、リョウが一番よく知っている。
「ほな……勉強頑張って」
「うん」
「邪魔してごめんな」
「かまわないよ」
切る、と言ってからが長い。本当は切りたくないのが明らかに見て取れる。そりゃあそうだろう、本当なら片時も恋人と離れたくないタイプのリョウだから。アヤ自身は恋人とも適度に距離を保ちたいタイプだから、今のような交際スタイルに不満がない。だが、リョウはそうではないということもわかっている。
「リョウ」
「ん?」
「愛してる」
「あ……」
「いつだって、ずっと」
「うん……うん」
「……ごめんね」
アヤが小さく謝ると、リョウは首を振った。
「いつも通りに戻ったら、すぐ会いに行くから」
「そのときは俺がそっちに行くよ」
アヤがそう言うとリョウは驚き、切れ長で大きな目が一瞬丸くなったが、すぐに細くなった。
「ほんま?!楽しみにしてる!一緒に行きたいとこいっぱいあるねん!リスト作っとくな!」
一日中駆けずり回らされることを思うと今から億劫になってくるのは、今は悟られないようにしよう。弾ける笑顔を見つめながら、アヤも目を細めた。
【おわり】
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