3.何でも大好き和子ちゃん

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 部屋に入ると、既に時計は午後6時半を回っていた。  夕御飯の煮物のよい香りが階下から立ち上ってくる。  和子は円いちゃぶ台の上にガイドブックを放り投げると、窓からほんのりと黄色く染まりつつある海を眺めた。  今日はひとまず休んで、じっくりその後の計画を立てよう。  気ままなひとり旅なのだ。  財布と相談しながらだけど、自分の好きなように動いて構わない。  誰が口を挟んでも、従う義務なんてないんだ。  和子は胸を押さえた。  まだ、胸の高揚が治まらない。  今日一日に起こった出来事が、走馬灯のようにグルグルと頭を過った。  美しい田舎町。  不気味な岬の屋敷。  冷たい暁。  5人の幼馴染み。  天使の洞窟・・・・・・。  学校と家を往復しているだけの、普段の平々凡々な日々とは全く違う。  良くも悪くもエキサイティングな一日だった。  疲れた。身も、心も。  10代なのに何を言ってるんだと言う感じだろうけど、今は本当に、泥のように眠りたい気分だ。  天使の洞窟。  そこには1度、足を運ばなければならない気がする。  また何時間も歩くのならば、あのサンダルはもう捨てなければ。  破けてるし、泥まみれで、どう見ても長距離用じゃない。  ピロロロロロンッ  スマホにメッセージが1通届いた。  稔彦だ。 『赤点まみれの成績だったくせに、お気楽に小旅行だって?友達に迷惑かけんなよ!』  夏休みまで、保護者ぶらなくていいのに。  最近本当に、稔彦の世話好きに辟易する。  お節介と言うか、真面目すぎて、その熱さが、暑苦しい・・・・・・。 「いいや。無視しとこ。もう今日は疲れた・・・・・・」  そして和子は、夕食の呼び声が女将から掛かるまでの間、暫くぐったりと畳の上に横たわっていた。
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