50.少女からの手紙

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 千恵美の朗読は終わった。  千恵美が手紙から顔を上げると、和子は絶句し、明らかに困惑の表情を浮かべていた。  冨美が、亡くなっていた。  行方不明、ということだけれど、今、この災害からひと月経った時点で生存が確認されていないということは、ほぼ間違いなく死を意味する。  ショックで、息が詰まった。  あまりにも唐突な報告で、今この和子の衰弱した精神状態では到底受け止めきれる内容ではなかった。  和子は吐き気を催し、喉に手を当てた。  半身を捻りながら起き上がった和子のその不快げな様子を見て、千恵美は何が起こるかを察して慌てて近くのビニール袋を差し出した。  和子の背中を擦りながら、千恵美は控えめに、けれどどこか決然とした態度で言った。 「あたし・・・・・・冨美さんの気持ち、分かる気がするな。冨美さんにとって、和子ちゃんは光だったんだよ。  それで、今も未来もずっと先も、和子ちゃんには光でいてほしい。  そのままの、和子ちゃんらしい和子ちゃんで、いてほしかったんだよ」 「・・・・・・そん、な」  和子は吐いた。  胃の中全てあるものが邪魔であるかのように、目からは涙が、鼻からは鼻水が出て、顔中がドロドロぐしゃぐしゃになった。  それでも、そんなことはどうでもよかった。  誰にバカにされても、ドン引きされても、そんなことは一向に気にならなかった。  自分の目が、人から見てとても醜いものであるということは気づいていた。  そしてこのゲロにまみれた姿はさらに醜く、汚い。  けれど和子は、その容姿以上に、自分の心がこんなにももろい砂の城のようであったことの方がショックだった。  なんて頼りない、なんて小さな人間だったのだろう。  苦しくて悲しくて、やりきれない。  和子は吐くものがなくなっても、嗚咽し続けていた。  顔を上げることが出来ず、大声で泣き崩れていた。    その様子を少し前から公民館の入口で、武夫と稔彦が見ていた。  稔彦は拳を握りしめ、唇を噛み締めながら、自分の無力さを呪っていた。 ad718e75-3bab-4b29-a33e-fef56c59f96b
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