安息日

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 「ああ、とても穏やかな良いお天気だわ。きっと素敵な1日になる」  6日間、日の出と共にパン屋に向かい、仕事をしていたエリィ。本日は、安息日だからいつもより少し遅く起きても大丈夫。午前中は教会に行って、それから隣にある孤児院へ顔を出す。午後は何をしようか。  そんな事を考えながら、古ぼけたベッドの寝具を窓辺で干して簡単に室内の埃を取る。ベッドと同じくらい古い机と5着のワンピースと下着が入っているだけのタンス。そして数冊の本が入った本棚のあるこの1室が、20歳を迎えたエリィの小さな家。  孤児院を18歳で出てから、パン屋の女主人に紹介された集合住宅は、夜明けと共に家を出てしまうエリィにとって、住人との関わりはあまり無い。ただ、両隣に住んでいる人は、それぞれ顔を合わせた事が有った。右隣は、パン屋の主人……つまり女主人の夫……の行きつけの飲み屋で働いている女性。左隣は、どうやら画家になりたい学生さんということで、元は白かっただろうシャツが、様々な色が飛び散ったものを着ていた。こちらは、男性である。  どちらの住人ともあまり顔を合わせないのに、その日、エリィは左隣の住人さんと距離を縮める事になってしまうとは思いもよらなかった。  「さて。掃除は終わったし、市へ行って果物を買って、昨日サーラさんからもらったパンと共に朝食にしちゃおう!」  一人暮らしのせいか、エリィは独り言を言いながら、次の行動を思い描く。サーラとは、パン屋の女主人の名前だ。客商売だから愛想も良いし、エリィが失敗しても余程じゃ無ければ叱らない、大らかな人である。  市に出かけようと籠と財布を持って、部屋を出る寸前のエリィは、ドアの向こうから聞こえて来たバンッという音に足を止めた。……気のせいで無ければ、両隣の部屋のドアでなく、エリィの部屋のドアから音がしたはずだ。  おそるおそるドアを内側へ引いて、隙間から外を覗いてみた。
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