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「ここは」
「私の部屋」
「そうだろうな。俺の部屋だったら色んな絵の具が飛び散っている」
それもどうかと思うな、とエリィは思ったが口にはしない。
「食べられる?」
「いいのか?」
エリィがスープに浸されたパンが入った鍋と、共同の食堂から持ってきたスプーンを見せて尋ねる。
「3日も食べてないなんて聞いたら、ダメなんて言えないわ」
「済まない」
鍋とスプーンを押し付ければ、猛然と食べ始めた。慌てて食べるから咳き込んでいる。呆れたエリィは、水を出す。その水を一気に飲み干して、トーマは息をついた。
「悪い」
「落ち着いて食べればいいのに」
「そうだな。ええと、エリィだったよな。俺はトーマ」
「知っているわ」
最初に顔を合わせた時に聞いただけだったから、覚えていて良かった。とはエリィは口にしなかったが。それっきりトーマは喋らないで食事に集中した。
「はぁ、美味かった。ありがとう」
「どういたしまして。お金が無かったの?」
「何故?」
「3日も食べていないって言ったじゃない」
「ああ……。食べるのを忘れていただけだ。絵を描いていると夢中になってしまって忘れるんだ」
やっぱりこの人は、生活能力が欠けている。エリィは頬を痙攣らせながら、人騒がせな隣人に溜息をついた。
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