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こうしてエリィとトーマは、少しずつ距離を縮め始めた。1日置きに共に夕食を取り、風景画が専門のトーマと一緒に遠出をしたり、エリィと共に教会へ足を運んだり。そんな日々が3ヶ月も続いた頃、トーマが久しぶりに気を緩めたようにボンヤリとしている事に、エリィは気付いた。
「トーマ、絵が進まないの?」
「いや。……婚約者から婚約解消を申し込まれたんだ」
エリィは驚いて、トーマの顔をマジマジと見てしまった。
3ヶ月も交流を続けていれば、ある程度、互いの素性も話には出る。例えばエリィが孤児である事。例えばトーマが学生ではなく、一人前の若手画家であること。だが、トーマに婚約者が居るとは思いも寄らなかった。
「トーマ。後悔しない内に、話し合って来たら?」
ボンヤリとしているトーマを見れば、婚約者に未練が有りそうだ、とエリィは思う。エリィとトーマは友人で、互いに恋愛感情なんて無いのだが、だからこそこういった助言が出来るのかもしれない。
「うん……。そうだな。話し合いは必要だよな」
「そう思うわ。トーマ、婚約者さんの事が好きなのでしょう?」
「好きか嫌いかの2択なら好意は有るが、恋愛感情では無いからな」
トーマがポツリと溢す。エリィは目を瞬かせた。恋愛感情抜きの婚約者など、貴族のようだ。そう考えてエリィは、ハッとした。トーマは確かに育ちの良さそうな、品の有る仕草をする。エリィと同い年という事にも驚いたくらい、落ち着きが有る男。
だが、それも貴族として教育をきちんと受けている、という事なら納得がいった。
しかし、それだけだ。
これ以上、トーマの人生に踏み込む気は起きなかった。トーマがエリィに踏み込んで欲しい、と思うならともかく。だからエリィはその言葉を聞こえなかったフリをした。
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