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「ああ。あれね。歯がかゆいのよ」
「かゆい?」
「抜けたの、最後の乳歯が」
「へえーっ」
客間に集う老紳士、急ぎメイドちゃんを呼び寄せます。
「おー、ホントだ。ちっちゃい歯が生えてきてる!」
「次俺、俺な!」
老紳士たちは、もうテニスなんかそっちのけ。
メイドちゃん、かなーり嫌そうです。
優秀なメイドとして、お客様に無礼を働くわけにはまいりません。
でも、口に指を突っ込まれて生えかけの歯を触られるのは。
やっぱり嫌。
仁徳ある奥様がお止めにならないのは、秘めたる事情があります。
最後の乳歯が取れかけているときに、奥様も同じことをしておられました。
すると、乳歯はポロっととれてしまったのです。
痛くはないけれど、血が出たものですから。
勇敢なるメイドちゃんといえども、号泣せざるを得ません。
そういう秘め事があるので、奥様も強く出れないのでした。
「もうあなたたち帰りなさい! うちは食事の時間なの!」
真実を秘めたるままに、老紳士の皆様を追い出すことなさいました。
「どうせインスタントか市販品だろー」
「明日も来てやるぞー」
「うちのが夜に来るからよろしくなー」
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