14人が本棚に入れています
本棚に追加
2話「市場」Moonlight.
「はい。これが現品よ」
日焼けした男が袋を開ける。
「確かに。間違いない」
ローザは土産の葉巻を取り出す。男にもすすめる。男は受け取りかけ、やめる。
「医者に止められててな……。アンタが羨ましい」
微笑を漏らし、葉巻を置く。
ヴィクトリア朝を思わせるワンピースが、小さく衣擦れの音を立てる。
二人の間にローテーブル。照らす照明はLEDに変わった。
「不健康なことしかしていない自覚はあるのだけれど……。80にもなると死神も手抜きを始めるみたいね」
男はため息で返す。
「死神ですら手抜きができるのに。俺はいつまでも手も気も抜けない」
「いいことよ。年寄りがぐうたらを覚えたら、取り戻すには寿命が足りない。若者の愚行をたしなめる役は必要よ」
男は大きくため息を吐く。
「まったくだ。最近の若造は市場の意味を取り違えてやがる。ネットでコカインの買い手をつのる? それはいい。手軽に買えるものが売れる。パン屋で取り寄せ品の小麦粉に偽装して売る? それはいい。袋一杯の粉を買って帰っても怪しまれない。だが」
「何も知らないパン屋を仲介にするのは、なってない」
最初のコメントを投稿しよう!