2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
それから三日後の昼休み、健が赤黒くなった桑の実を取って食べていると、そこへ澄江が独りでやって来た。
「ねえ、その桑の実、しょっぱくないの?」
「赤いのは熟してないからしょっぱいけど、黒っぽいのは熟してるから甘いよ」
「あっ、そっか、じゃあ、これなんか甘いかしら?」
「うん、それなら甘いと思うよ」
「じゃあ、食べてみよ」と澄江は言うと、赤黒い実を取って食べてみた。「ほんとだ!あま~い!」
「何たってマルベリージャムの素だからね」
「へえー、ジャムの素なんだあ」
澄江は感心したように言うと、赤黒いのを選んで取ってはパクパク食べだしたので健が注意した。
「お、おい、あんまり食ったらだめだよ」
「えっ、何で?」
「君一人のもんじゃないんだから」
「あっ、そうね、じゃあ、あと一つだけ」と言って澄江は一つ取って食べ終えると、健に向かってにかっと笑ってみせた。それはスカートをめくって欲しい願望の表れだった。が、健がそっぽを向いて栗の木から去るべく一歩二歩と踏み出すと、澄江は呼び戻すべく、「ちょっと待ってよ!」とがなった。
健は顧みて、「えっ、何か用?」
「用ってほどじゃないけど・・・分かるでしょ・・・」
「分からないよ。君と親しい訳じゃないし・・・」と健が困惑顔で言うと、澄江はじっと健を見つめながら焦れったそうにした後、「もう、これよ」と言ってスカートを指差す。
「ああ、あのさあ、僕が汚したんじゃないよ。君が食べてる時に桑の実の汁を垂らしたんだよ」
「もう!そんな事じゃないわよ!」と気の短い澄江はいきり立つ。
「あ、あのさあ、兎に角、僕は桑の実を食べたからそこにはもう用がないんだ。じゃあ、お先に失礼するよ」と言って健が去っていくと、澄江はもう!もう!もう!と牛のように唸って地団太ふんで苛立った。その内、左腕がかゆくなって来たので、そこを見ると蚊が留まって血を吸っていた。
「うわあ!この野郎!」と澄江は叫ぶや否や右掌で蚊を叩き潰した。「うわあ!こんなに血が出た!うわあ!かいい~!この糞ったれが!」
澄江はその後も文句をぶつぶつ呟きながら桑の実を自棄食いし、その内、赤いのも口の中に放り込んでしまったので、うわあ!しょっぺーと言うのと同時に甘いのと一緒に吐き出して序に愚痴を吐き出した。
「嗚呼、一度でいいからスカート捲られてみたい。そして男の子を追っかけてみたい。そんな機会がない私は女の子じゃない・・・」
最初のコメントを投稿しよう!