ピンキーなカップル

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 それから二日後の日曜日、健は昼下がりに駄菓子屋さんで買い物をしてから学校に遊びに行くと、鉄棒で逆上がりの練習をしている朋美を見つけてアイスクリームのホームランバーを嘗めながらそっちへ向かった。  それに気づいた朋美は直ちに逆上がりの練習を止めた。彼女はスカートを履いていたのでパンツを見られると思ったのだ。 「やあ、奇遇だね」と健は切り出した。「こんなとこで逢うなんて」 「こんなとこって学校じゃない」 「アハハ!そうだね、学校なら逢わない事もないよね」と健は言いしなホームランバーを一口食べた。「それはそうと逆上がりの練習をしてたんだろ」 「そうよ」 「じゃあ、続けなよ」 「いやよ」 「えっ、何で?」 「何でって分かるでしょ」 「あ、ああ、そうか、確かに」と健はスカートを見ながら言って敢えて朋美から目線を外し、ホームランバーを食べることに専念して食べ終えると、白樺棒の焼き印を見て、「あっ、ヒットだ。ラッキー」と呟きながら半ズボンのポケットに白樺棒を仕舞った。「まあ、パンツ見られるのは恥ずかしいことだから嫌だろうけど、スカート捲りされる時はそうでもないんじゃないの」 「えー!何言ってるの?嫌に決まってるじゃない!」 「えっ、へへへ、そうかなあ。だって女子は男子が可愛い女子程、興味の有る事を知ってるから僕にスカート捲りされると恥ずかしいには違いないから嫌がって見せるけど、私はそれ相応に魅力的に思われてるんだわっていう思いが生まれるから嬉しそうにもするじゃないか。青島にしたってさ」 「えー!私は嫌なだけよ」 「えー!そうかなあ。だって僕を追っかけてる時、笑ってるじゃないか!」 「えっ!だって、私・・・」と朋美が言葉に詰まってしまうと、健はにんまりして、「ほら、ごらん」と言った序に筋入り茶袋からチョコバットを取り出して彼女に差し出した。「これ、食べても良いよ」 「えっ、良いの?」 「うん、サクランボ餅も都こんぶもサイコロキャラメルもあるからさあ、ブランコに座りながら食べようよ」 「えっ、だって私・・・」と朋美がまた言葉に詰まってしまうと、「ああ、そうか、逆上がりの練習をしたいんだね。じゃあ、僕は独りで食べるよ」と健は言ってブランコの方へすたすたと歩いて行った。  内心、朋美は健を引き留めたくなったが、恥ずかしくて出来なかった。だからと言って逆上がりの練習を続ける気にもなれなかった。それで、どうしようどうしようともじもじしていると、「おーい!何してるんだよ!逆上がりの練習しないならこっちへ来なよ!」と健が大声で呼ばわった。  渡りに船を得た朋美は恥ずかしがりながらも健の方へ近づいて行った。  健は朋美が傍まで来た時、流石にちょっと照れたが、自然と笑顔になって、「さあ、僕の隣に座んなよ」と言うと、朋美はほんとにませてるわと思い、半ば呆れ、半ば期待しながら健の横に座った。  健が大人びた口調で、「いやあ、よく来てくれたねえ」と言うと、朋美は可笑しくなって思わず微笑み返した。 「はい、チョコバット」  再び差し出された朋美は面映ゆそうに可笑しそうに受け取った。 「さてと僕もチョコバットを食べよっかな」と言って健はもう一本のチョコバットを筋入り茶袋から取り出して一口食べた。 「嗚呼、おいしい、うまいよね」と健がまだ食べていない朋美に言うと、彼女は可笑しがりながらチョコバットを食べだした。 「君は食べ方が上品で好いよ。そこへ行くと栗田は駄目だね」 「どういう風に?」 「こないださあ、僕が桑の実を食べてたら栗田が僕の所に来て桑の実を物凄い勢いで食べ出したんだよ。だから、こいつほんとに女かよと思いながらそんなに食べたらみんなの分がなくなっちゃうじゃないかって注意してやったのにさっき桑の木見てみたらさあ、実がほとんどなくなってたんだよ。これは間違いなく僕が去った後、また物凄い勢いで食べたに違いないね」 「ふふふ、随分な言い方に随分な想像ね」 「いや、間違いないよ。全く下品な女だ」と健は言ってからチョコバットをぼりぼりと言わせながら食い尽くした。「さあ、今度は都こんぶでも嘗め嘗めしながら食べてみるか」 「嘗め嘗めだなんて今村君こそ下品だわ」 「いや、都こんぶは嘗め嘗めしながら食うもんだからね」と健は言いながらそれを箱から取り出すと、本当に嘗め嘗め仕出した。 「まあ、やらしい」 「ヒッヒッヒ、好いねえ、その言い種、君が言うと様になってて好いよ」 「あら、どういうこと?」 「ヒッヒッヒ、その言い種も様になってて好いよ」 「もう、今村君ったら笑い方がいやらしいわ」 「へっへっへ、そうかい、お詫びに、はい、都こんぶ」と健はそれをいそいそと差し出す。 「私、まだ食べてるのに」 「ハッハッハ!そうか、君のお口は小さいからなあ、さてとサイコロキャラメルでも嘗め嘗めしようかなあ」 「また嘗め嘗めだなんて、もう嫌い!」 「へっへっへ、こんなことでプンプンする所がまた好いねえ」 「好いねえ好いねえってほんとに今村君っていやらしいわ!」 「ハッハッハ!いやいや、ごめんごめん」と謝りながらも御満悦の健であった。「ところでさあ、栗田がどうも、僕らに嫉妬してるみたいなんだ」 「えっ」と一言呟いた途端、朋美の顔が赤くなった。 「いやあ、何て言うかさあ、栗田は君のじゃなくて私のを捲ってよって望んでるらしいんだ」 「捲るって?」 「また猫被っちゃって!決まってるじゃないか!スカートをだよ」 「えー!そんな筈ないわ!」 「いやいや、君はね、何回も捲られた経験があるから栗田の気持ちが分からないだろうけど、彼女はねえ、僕が君のスカートを捲ったのを目の当たりにして君を羨ましく思い、妬ましく思い、また僕を憎らしく思い、恨めしく思ったのさ」 「えー!あなたは女の子がスカートを捲られたらどれだけ恥ずかしい思いをするか、分からないから・・・」 「いやいや、納得できないならこう考えてみなよ。僕がこないだ君のじゃなくて栗田のスカートを捲って逃げて栗田が追っかけたとするよ。残された君はどう思うだろうってね」 「う~ん」と朋美が唸って考え始めると、「これ、嘗めながら考えてみなよ」と言って健は都こんぶを差し出した。 「私、それよりキャラメルの方が好いわ」 「そっか、確かにこんぶって言うよりキャラメルって感じだからな」と健は言いながらサイコロキャラメルを箱ごと朋美に渡した。 「それはまたどういうこと?」 「こんぶって言うとぬめぬめ黒々としていて田舎染みた野暮ったい感じがするけど、キャラメルって言うとつやつや輝いてて洗練された可愛い感じがするじゃないか」 「ふふふ、そう」と朋美は嬉しそうに言うと、キャラメルを箱から一個取り出し、口の中に入れた。  朋美がおいしそうに嘗めているのを見て「納得できたでしょ」と健が問うと、「まあね」と彼女はにっこりとして答えた。  健は朋美が時折、ほっぺを膨らませてキャラメルを嘗めているのを見て、サクランボ餅が食べたくなって、「あっ、そうだ、これがまだ有ったんだ」と言うと筋入り茶袋からサクランボ餅の入った箱を取り出してセットで付いている爪楊枝を使って食べだした。 「嗚呼、もちもちしててうまいなあ・・・」  それを横目に朋美がすっかり和んでキャラメルを嘗めていると、健は今だと思って、さっと右手を伸ばしてスカートを捲った。 「うわあ!ピンクだ!君、勝負パンツ履いて来たのかい!」と健が言うなり立ち上がって校庭を走り出すと、しまった!油断しちゃった!と悔いた朋美は、頗る恥ずかしくなったものの彼を追っかけて行く顔は笑っていた。  健はスカートめくりしてから逃げる時、走り出しこそ速いが、いつも途中から態と疲れた風を装って減速して追っかけて来る女子に捕まるのである。そして抓られたりどやされたりしながら女子とじゃれ合うのである。だから朋美ともそういうことになって、「おいおい、そんなに抓るなよ、痛いから・・・」 「ふふふ、これくらい我慢しなさいよ」  健はもっと抓って欲しい癖に、「いててて、もうしないからやめてよ」 「ふふふ、嘘ばっかり、エッチな子はこうしてやるんだから」 「いってー!いてえよ、やめろよ」と言いながらも嬉しそうである。 「ふふふ、エッチな子にはお仕置きしてあげるの」 「いってえ、あ、あのねえ、エッチエッチって言うけどさあ、人の事を言えた義理かよ」 「えっ、どうして?」 「どうしても何も何処の子供がピンクのパンツなんか履いて来るんだよ!」 「えっ、日曜日くらいいいじゃない!」 「しかしねえ、小学五年生の僕には刺激が強すぎるんだよ」 「スカート捲らなきゃいいじゃない!」 「いや、スカート履くからいけないんだよ」 「そんなの女の子のファッションだからしょうがないじゃない!」 「ズボンだって女の子のファッションになるでしょ」 「でも、私、スカートの方が好きなんだもん!」 「そうなのか、それじゃあしょうがないけど、しかしさあ、捲らなくても想像しちゃうから何か堪らなくなるんだよなあ・・・」 「もう、やだー!想像してるの!エッチなんだから!」と朋美は叫ぶが早いか健の尻を強か抓った。 「いってえ!もう止めろよ!何回抓りゃあ気が済むんだよ!」と健が苦情を言いながら尻を摩って殊更に痛がると、「ふふふ、ああ、可笑しい」と朋美はとても可笑しがるのである。  健にとって可愛い子に抓られるイコール可愛い子とじゃれ合うということになり、こうなることが目的でスカートめくりをするようなものだった。そしてもっとじゃれ合う為にちょっと触るような仕草をすると、「うわあ!やだ~!だめ~!今村くんのエッチ!」と言われて尻を引っ叩かれて目的を果たすのである。 「おう、いて、散々な目に遭った。それにしても何だなあ、目にピンク色が焼き付いちゃったからサクランボ餅がまた食べたくなった。ピンクの寒天ボーも食いたいな、それとピンクのマーブルチョコにピンクのラムネにピンクにびっくりしたからビックリマンチョコも食いたいなあ」 「アッハッハ!どんだけ食いしん坊なの!今村君ったらピンクピンクってもう、やだー!私をピンキーみたいに見ないで!」 「い、いや、どうしたってピンクが・・・」 「もう、やだー!また想像してるのね!このエッチ!」と朋美は叫ぶが早いか健のほっぺに到頭、平手打ちを食らわした。  すると、「うぎゃー!いってえ!」と健が本気で痛がったが、朋美はそんなに悪びれることもなく言った。 「あー!ごめんね、私、つい、やっちゃった」 「き、君は…」と健はほっぺを摩りながら言った。「そんな謝り方でも許されると思い上がっていて、ほんとに許されるから得だよね」 「あら、許してくれるの?それじゃあ、申し訳ないわ、お詫びに、はい、これ!」 「どて!」と健は音を立ててひっくり返ってしまった。なんと朋美が自らスカートをめくってピンクのパンツを見せたからだ。 「私、お菓子もらったのにビンタなんかして、ほんとに申し訳なくって大胆になっちゃった。うふ」  健は衣服に付いた砂埃を払いながら立ち上がり、「君、ひょっとして露出狂なんじゃないの?」 「えっ!いたいけな乙女を捕まえて何、言ってるの?そんな訳ないわ!私は普通の女の子よ」 「へっへっへ、その普通というのが曲者でねえ、君みたいな子は一々言うことに裏があると言うか、誤魔化しがあると言うか、まあ、よく分からないけど・・・」 「まあ!私を詐欺師みたいに言って!それは下種の勘繰りというものよ!」 「ああ、そうかい、何せ、僕は人の奥の奥まで穿鑿するのが好きな少年なものでねえ」 「まあ!やらしい少年だこと」 「へっへっへ、その言い回し、気に入ったぜ」 「何、気取ってるの」 「へっへっへ、はあ、しかし、追っかけられたり抓られたりして酷く騒いだから腹減っちゃった。何か奢ってよ」 「えっ、お金ないの?」 「うん、小遣い全部使っちゃったし桑の実もないしね。小遣い惜しいなら栗田に文句を言いな」 「別に文句なんかないわ。ほんとに申し訳なく思ってるんだから」 「えっ、そうなの、へえー、君って案外、義理堅いんだね。じゃあ、もう一回パンツ見してよ!」  健がそう言った途端、朋美はにやっと笑うなり彼の二の腕を強か抓った。 「いってえ!」 「調子に乗るんじゃないの!はい、30円」 「えっ、一緒に行かないの?」 「うん、私、逆上がりの練習がしたくなったの」 「あっ、そうか、じゃあ、今日はこれでお別れということで」 「そうね」 「そんじゃあ、バイバイ!」 「バイバ~イ!」
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