ピンキーなカップル

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 健は思春期に入って女子生徒に興味を持ち始めた小学五年生。  或る昼休み、健は桑の実でも食べてみようかと思って校庭の隅っこに生えている桑の木のところへ行ってみた。  すると、枝に留まって樹皮を齧って食べているゴマダラカミキリムシが目に留まった。  児童たちが遊び騒ぐ殷賑とした中でカリカリコリコリと樹皮を剥ぐ音が妙に耳に響いて来る。  そんな時、健は孤独の深淵に陥り、周囲を閑却して独りの世界に没入してしまうような少年だから自ずと腕を伸ばしてゴマダラカミキリムシを捕まえると、木陰に座り、それを地面に置いて人差し指で延々と突いていた。ところへ同級生で器量の良い青島朋美と同じく同級生で器量の悪い栗田澄江がやって来て健の背後から片方が声を掛けた。 「ねえ、今村君、何してるの?」  健ははっとして我に返り、朋ちゃんだ!と秘かにときめいて態と振り向きもせず、「皆のいる喧騒を離れ独り自然を楽しんでるのさ」と気障ったらしく言うと、振り向きざま呟いた。「カミキリムシ」 「カミキリムシ?」と朋美が聞き返すと、健はうんと答えた後、ここぞとばかり叫んだ。 「ゴマダレカミキリムシ!」 「ゴマダレカミキリムシ?」と朋美だけでなく澄江も聞き返すと、健は笑いながら言った。 「違うよ、しゃぶしゃぶのたれじゃないんだからゴマダラカミキリムシだよ!」 「何よ!ゴマダレって言ったじゃないの!」と澄江が文句を言うと、健はゴマダラカミキリムシをひっ摑まえて彼女達の目の前にぐっと寄せた。  その瞬間、「キャー!」と彼女達が叫ぶと、健はにやにやしながら言った。 「ほら、こいつは君達と違ってキイキイ鳴いてるよ!」 「苦しそうだから放してあげなさいよ!」と朋美が注意すると、「こいつはねえ苦しんでるんじゃなくて威嚇してるんだよ!ほらっ!」と健は言うなりゴマダラカミキリムシをさっきにも増して彼女達の目の前にぐっと寄せた。  すると、「キャー!」と彼女達が再び叫んだ隙に健はゴマダラカミキリムシを放してやりながら朋美のスカートを捲るが早いか一目散に逃げて行き、朋美がその後を追っかけて行った。  後に残された澄江は悋気を起こして、チェっと舌打ちし、何であたしのスカートは捲ってくれないのよと文句を呟きながら地面にいたゴマダラカミキリムシに近づいて行って憎らしさと恨めしさと妬ましさを込めて無残にもゴマダラカミキリムシを踏みつぶしてしまった。  その死骸に無数の足を持ったムカデがにょろにょろと寄って来て大顎と小顎を駆使してむしゃむしゃと死骸を食い尽くした。  それを見ていた澄江は触発されて、まだ熟していない綺麗な赤色をした桑の実を何個も引きちぎって口の中へ放り込み、食べようとしたが、うわ!すっぺえ!と言って吐き出してしまった。  そのぐちゃぐちゃになった物にハエが集って来たのを見て澄江は不味い顔を一層不味そうにして、何で朋美のだけ捲るんだよとまた文句を呟くと、不満たらたらで校舎へ帰って行った。
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