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暫くすると、同じ年くらいの若い女性が料理を運んできた。
彼女は、巴也を見ると大きな目に好奇心を浮かべた。
「瑞樹です。従妹らしいんだけど覚えてるかな?私、小さい頃の事あまり覚えてなくて」
そう言って、持っていた料理をテーブルに並べ始めた。
巴也は、幼い頃に例祭や親戚の集まりで、近しい年齢の女の子がいたのを思い出した。
当時は、宮司の子として、行事日の前後は神社の手伝いをさせられていたので、誰かと遊んだという記憶が無かった。
だが、ぼんやりとだが瑞樹のことは覚えていた。
その女の子が、こんなに綺麗になるなんて。
ただ、何だろう。はっきりとは分からなかったが、瑞樹が誰かに似ていると巴也は思った。
「何となくだけど、覚えてるよ」
「そっかあ、でも、一緒に遊んだりはしてなかったよね」
彼女は、そう言って、空のお盆を持ってキッチンの方へと戻っていった。
食事の席は、叔母や瑞樹が加わって賑やかになった。
叔母が話し始めた。
「主人は10年以上も前に他界してて、今は宮司をおじいちゃん、権宮司は私がやっているの。まあ、おじいちゃんがこうだから、一通り、取り仕切っているのは私になるわね。瑞樹が早くお婿さんを見つけてきて、その人が宮司をやってくれると私も助かるんだけどね」
叔母がちらりと琉煌を見る。
琉煌は無反応だ。
瑞樹が頬を染めて、小さく左手を振った。
「え、私、結婚はまだ先だよ、相手もいないのに――」
瑞樹の視線も琉煌に向いた。
琉煌は人気のようだ。
当然だ。院生で、男の巴也から見ても見惚れてしまう。体系もモデルのように細身で均整が取れている。
「巴也さんは、東京に彼女とかいるんでしょう?」
瑞樹が突然、巴也に話をふってきた。
巴也は慌てて、口の中の物を飛ばしそうになった。
「え? 僕? いや、いないよ」
「そうなの? 東京って人が多いし、ほとんどの人が彼女とかいると思ったんだけど」
巴也の心中は複雑だった。生まれてこのかた、彼女ができたことは一度もない。
「人によるんじゃないかな。僕はもてないから」
「へえ、そうなの? 琉煌さんは、大学にいそうだよね」
琉煌は箸を止めた。あらかた食べ終えているようだった。
「いえ、いません」
「そうなの? もてそうなのに。え、もしかして好きな人とかいるの?」
女性陣はイケメン相手に、質問攻めだ。毎食、こんな感じなんだろうか、巴也は思う。
琉煌は、巴也に一瞬、目をやった。そして叔母に訊ねた。
「いえ特には。ところで、占禍の儀が近いと思いますが、誰が参加するんですか?」
占禍の儀――。
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