青藍池

3/3
前へ
/36ページ
次へ
 暫くすると、同じ年くらいの若い女性が料理を運んできた。  彼女は、巴也を見ると大きな目に好奇心を浮かべた。 「瑞樹です。従妹らしいんだけど覚えてるかな?私、小さい頃の事あまり覚えてなくて」  そう言って、持っていた料理をテーブルに並べ始めた。  巴也は、幼い頃に例祭や親戚の集まりで、近しい年齢の女の子がいたのを思い出した。  当時は、宮司の子として、行事日の前後は神社の手伝いをさせられていたので、誰かと遊んだという記憶が無かった。  だが、ぼんやりとだが瑞樹のことは覚えていた。  その女の子が、こんなに綺麗になるなんて。  ただ、何だろう。はっきりとは分からなかったが、瑞樹が誰かに似ていると巴也は思った。 「何となくだけど、覚えてるよ」 「そっかあ、でも、一緒に遊んだりはしてなかったよね」  彼女は、そう言って、空のお盆を持ってキッチンの方へと戻っていった。  食事の席は、叔母や瑞樹が加わって賑やかになった。  叔母が話し始めた。 「主人は10年以上も前に他界してて、今は宮司をおじいちゃん、権宮司は私がやっているの。まあ、おじいちゃんがこうだから、一通り、取り仕切っているのは私になるわね。瑞樹が早くお婿さんを見つけてきて、その人が宮司をやってくれると私も助かるんだけどね」  叔母がちらりと琉煌を見る。  琉煌は無反応だ。  瑞樹が頬を染めて、小さく左手を振った。 「え、私、結婚はまだ先だよ、相手もいないのに――」  瑞樹の視線も琉煌に向いた。  琉煌は人気のようだ。  当然だ。院生で、男の巴也から見ても見惚れてしまう。体系もモデルのように細身で均整が取れている。 「巴也さんは、東京に彼女とかいるんでしょう?」  瑞樹が突然、巴也に話をふってきた。  巴也は慌てて、口の中の物を飛ばしそうになった。 「え? 僕? いや、いないよ」 「そうなの? 東京って人が多いし、ほとんどの人が彼女とかいると思ったんだけど」  巴也の心中は複雑だった。生まれてこのかた、彼女ができたことは一度もない。 「人によるんじゃないかな。僕はもてないから」 「へえ、そうなの? 琉煌さんは、大学にいそうだよね」  琉煌は箸を止めた。あらかた食べ終えているようだった。 「いえ、いません」 「そうなの? もてそうなのに。え、もしかして好きな人とかいるの?」  女性陣はイケメン相手に、質問攻めだ。毎食、こんな感じなんだろうか、巴也は思う。  琉煌は、巴也に一瞬、目をやった。そして叔母に訊ねた。 「いえ特には。ところで、占禍の儀が近いと思いますが、誰が参加するんですか?」  占禍の儀――。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加