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琉煌が、剣の舞の曲を奏で始めたー。
誰もが一瞬で、その音色に惹き込まれた。
初めて耳にする者は当然のこと、稽古中、何度も耳にした者にとっても、その音調は別格だった。
頭ではなく、心に直接、響いてくる龍笛独特の音色、それは幻想的で、遥か古の時代へと誘われていくようだった。
辿り着いた桃源郷で、新緑が風に擦れる優しい音が、煌めく小川のせせらぎ音が、白鹿が野を駆け戯れる音が、琉煌の笛一つで表現されていくー。
聴く者達は、皆、穢れを祓い落とされたかのように心が癒された。また、そうして変化した自分の心に驚いた。
また、美しい笛の旋律の最中、その音色に寄り添うように舞い始めた巴也の舞に、目は奪われた。
巴也が舞うことで桃源郷に、羽衣をまとった天女が舞い降り、白檀の香含む微風を起し、紅芍薬を愛で、瑞鳥が集って天女にさえずりの詩歌を捧げ、その優美な世界が目の前に繰り広げられていく。
参列者は思わず口に出した。
「…ここ、神社だよな?」
「男の人…よねー?なんであんなに優雅で綺麗なのー……」
誰もが皆、一斉に身を乗り出した。巴也の持つ剣は、羽衣に見えた。
巴也のたおやかな一挙一動に目が離せず、感嘆のため息を漏らし始めた。
巴也は、舞いながらとても満たされた気持ちだった。
ー葵生と共に舞っている…。
巴也は舞いながら、葵生の存在を感じていた。
葵生は、こう舞いたかったのだとー、無慈悲な殺生の無い、戦の無い、飢餓や病の無い、そんな平和で幸福な世の中を祈りながら、舞いたかったのだと、巴也自らに語りかけてくる。
ーそうだね、本当にそうだね…。
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