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次第に、曲調が変わっていく。
音調は螺旋を描きながら複雑に、やがて激しく大気を震わせていくー。
琉煌は、龍笛を口に、その目は巴也だけを、真直ぐに見つめる。
天女に惹きつけられ、邪気は、喰らいつく好機を計りながら、神楽殿の周囲を分厚く覆い、取り囲んでいた。
剣の威力は、凄まじく増していく。
琉煌は、巴也の負担を軽くするために、邪気の巴也への一進一退を図りながら、剣に力を注ぎ込む。
剣は一層の清気を帯び、神々しいまでに崇高な気を放出する。
力の満ちた剣の威力は、絶大だった。
龍の剣には、邪気は一切、近寄れない。
絶大だからこそ、巴也の腕には負担がかかった。
一太刀振るうと、余波が体に負荷をかけた。
その負荷を、うまく次の流れに乗せることが出来ればいいが、そうでなければ、より一層の負荷が体にかかった。
巴也は、眉根を寄せた。
誰も舞ったことのない、邪気を切り祓う、剣の舞の秘儀が繰り出されていた。
それは、巴也にとっての最大の難所であり、彼自身も、いまだ一度も成功したことのない剣捌きの部分でもあった。
暴雨となり落雷が響き、閃光が境内に走った。
だが、参列者達は、誰一人、気にも留めなかった。
強風も、豪雨も、雷も、例え嵐が来たとしても、今の参列者にとって、目の前の舞を中断させようとするもの全てが邪魔だった。
誰もが、理解していた。
この剣の舞が只の舞では無い、もう一生、見ることは出来ないであろう舞であることをー。
巴也は、笛の旋律と外の雷雨に同調するように、激しく高度な舞を生みだしていく。
少しでも感が良く、視る事の出来る者であれば、巴也が剣を振るい、黒い靄のようなものを切り祓っているのが分かった。
黒い靄は、あらゆる所から流れ込み、巴也へと迫っていく。
音色に合わせながらも、巴也が剣を持って巧みに祓っていく凄まじい様を、彼らはただ、固唾を呑んで見守っていた。
祖父の隣に座っていた崇龍会会長は、目を見開き呆然として、無意識に呟いた。
「ー巴也君は、何と闘っているんだ…?!巴也君の周りの黒い靄は、何なんだ?これはー、この剣の舞は一体ー…」
祖父は、冷静に答えた。
「本来の剣の舞は、邪気を祓う舞じゃ。龍神と龍神が選んだ者だけが行える、命がけの舞なのじゃよー」
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