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現在は、一見するとソープ店とはわからない、洒落たラブホテルのような店の前に、怪しい男は立っていない。真新しい自動ドアを潜ると、モノトーンで統一された清潔感のある待合室と受付があった。
外も中も今風できれいだ。だが、その受付に立つ男は、顔馴染みの口髭店長だった。なぜだろう、大輔は見慣れた顔に親近感を抱いた。北荒間にきれいな店は似合わない。
「……あれ、あんたたちだったの、店に来るケーサツって」
口髭店長が、彼にとっても顔馴染みの大輔と晃司に目を丸くする。
「その様子だともう聞いてるんだな、あんたんとこの黒服が殺されたって」
受付の前に立った晃司が話を始める。
「さっき捜査一課? の刑事さんから電話があったよ。うちの黒服が殺されたから、そいつについて話を聞かせてくれって。捜査一課の刑事さんが来るかと思ってたのに」
「あんたら、警察とはあんまり話したがらないだろ? だから先に俺たちが送り込まれたんだよ」
「あんたらだってケーサツじゃない」
口髭店長が意地悪く笑い、晃司が苦笑いする。
「で、あの黒服……伊藤祥太について洗いざらい喋ってもらおうか」
「その態度じゃおよそケーサツっぽくないけどね。……伊藤は、ここが新しくなった時に雇ったまだ新しい子で、あたしもあんまり詳しく知らないんだよ」
そう前置きして、口髭店長は伊藤祥太について話し出した。
「あいつ、景成会系の闇金で借金があってさ……ネットカジノだったかな? それでスッカラカンになって。で、その借金の返済もあっという間に焦げついて、返済代わりに新装開店で新しい黒服を増やしたいうちに紹介されてきたんだよ」
「あいつ……借金返せなくてヤクザに風俗店で働かされてたのか。北荒間、つうか風俗のこと知らなすぎるとは思ったけど、どうりでこの前みたいな騒ぎを起こすはずだ」
「ああ……あの件ではあんたらにも面倒かけたね。まったく……借金の返済で働いてる店で、その店の嬢に手を出すなんて呆れたバカだよ」
「店長、伊藤があの女の子と付き合ってるの知ってたんですか?」
大輔が驚いて訊ねると、店長は渋い顔になった。
「まったく最近の若いのは……ヤクザが怖くないのかねぇ? ヤクザに借金作っといて、ヤクザの商品に平気で手を出すんだから」
「おい店長、あいつが嬢に手を出したの、景成会に教えたのか?」
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