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「言うわけないよ、最悪殺されちゃうからね。しかも妊娠って……殺されるだけじゃなく、死体も残してもらえないよ。面倒なことしてくれたけど、悪い奴じゃなかったんだよ。だからそこまではねぇ。でもケジメはケジメだから、景成会には遅刻が多いとか別の理由を適当に話して、景成会系列の解体屋ででも働かせて、うちは辞めさせるつもりだったんだ」
大輔は店長の話を聞きながら、伊藤を殺した犯人を想像した。もしかしたら、伊藤が店の女性に手を出したと、景成会に知られたのでは――。
晃司を見ると目が合った。きっと、晃司も同じことを考えていたはずだ。神妙な顔をしている。
「店長、あいつが嬢に手を出しだ話は……上で知ってるのはあんただけか?」
「だと思うよ。嬢や黒服は何人か気づいてたかもしれないけど、自分からヤクザと話したがる奴もいないからね、チクったりはしないだろ」
あの、と大輔がベテランの二人の間に割って入る。
「新しいオーナー……景成会がどこかでヘッドハントしてきたっていうオーナーは、知らなかったんですか? オーナーが知ったら、さすがに景成会に伝えるんじゃないですか」
「どうだろ……オーナーは北荒間以外でも何店舗も見てるから、うちに顔出すなんて月一ぐらいだしね、黒服や嬢のことなんて気にかけてる暇なかったんじゃないかな」
新オーナーは、その経営手腕をよほど景成会に買われているらしい。この店以外にも、県内全域にわたって何店舗も任されているという。
「どうなんだそのオーナー、北荒間が長いあんたから見て」
やり手の風俗店オーナーに興味を持ったのか、晃司が訊ねる。
「デキる男だよ。若いのにそつがなくてね。愛想もいいし、こぎれいにしてるし、見た目はヤクザモンには見えないよ。水っぽさは隠せてないけどね。昔はホストで、その後風俗のスカウトやってて、そのスカウトの腕を見込まれて景成会が熱心に口説いたらしいよ」
「ベテランのあんたも随分信頼してるんだな」
口髭店長は新しいオーナーをべた褒めしたくせに、晃司のその言葉には即答せず苦笑した。
「店の経営については、ね。ただ……人として信頼できるかは別だ。あたしも年かね、どうもああいう若い男はいい子すぎて本音が読めなくて……裏があるんじゃないかって勘ぐっちゃうんだよ」
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