D-2

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「お前は小学生か。好きな子と別れちゃうからクラス替えがイヤだって? お前が捜一に行っても行かなくても、いずれは同じ職場じゃなくなるだろ。俺だってもう荒間署五年になるからな、いつどこに異動になってもおかしくない。でも俺らは……離れても県内なだけマシだよ」 「それでも……最北の署とか山間部とかだったら遠くなっちゃうし」 「どんだけ遠くても、車で数時間の距離じゃねぇか。警視庁や沖縄県警だったら離島もありえるんだぞ? したら飛行機か船になるし、北海道警だって陸続きでも、車じゃ一日かかるような場所もあるだろ。車飛ばせばすぐ会える距離なら大したことねぇよ」 「警察官が速度違反なんて許されませんよ」 頻繁に会えなくなるのを寂しがる大輔に晃司が冷たいので、拗ねた口ぶりになる。大輔はいつも――晃司に甘えてばかりだ。 晃司は目を細め、外だから抱き寄せはしないけれど、うつむく大輔の後頭部を優しく叩いた。 「俺がサボるの上手いの知ってるだろ? お前が捜一にいってコキ使われて忙しかったら、俺がいくらでも時間作って会いに行くよ。ま、お前の念願が叶うかは俺らにはわかんないけどな。つうか……井上たちは俺らの比じゃないな」 晃司が井上となにを比べたのかわからず、大輔は首を傾げて晃司を見つめた。 「俺らの距離は県内だけど……井上と穂積はとんでもない距離になるかもしれないな、と思ってさ。穂積は北は北海道から南は沖縄まで、どこでもありだ。そうなったら……さすがにどうすんだろうな」 大輔は、しばらく会っていない――憧れの人を思い出し、少し切なくなった。晃司の言う通り、穂積の恋は自分と晃司の恋よりさらに前途多難だ。いずれ、しかも近いうちに超遠距離恋愛になる可能性があるのだ。 美しい人が寂しい思いをするのを想像すると、胸が痛い。それから、自分が恵まれていることに気づかされる。署が変わってしまうだけで寂しくてたまらないのに、晃司と数百キロも離れてしまったら、寂しさと不安でおかしくなってしまうだろう。晃司に会いたすぎて、震えるどころか死んでしまうかもしれない。 外だから抱きつくことはできないけれど、思いを込めて晃司を見つめる。 「……俺も、会いに行きます。制限速度は守って、晃司さんが会いたくなったらいつでも」 大輔の決意に、晃司が優しく微笑む。その笑みを、決して手放しはしないと大輔は誓う。
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