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「……大輔くんは今でも可愛くてしょうがないですけど、吉田部長に関しては、絡まれて迷惑なだけですよ。恋人に変な誤解されてるみたいですし」
井上のキツめの嫌みにキツい口調で返す。井上が苦笑いした。
「やっぱ……大輔はムカつくな。今でも可愛いんだ。……ごめん、この前部長となに話したのか気になって……素直にそう聞けばよかったね」
井上がアッサリ白旗を挙げたので、香は肩透かしを食らう。そして、意地悪を返したことに気まずくなる。
「俺も……ムキになってごめん。部長とは……来年の人事について話したいから、近いうちに食事に行こうって誘われた。よかったら稜も一緒に、て」
俺?! と声を上げ、井上は笑った。
「まいったなぁ……あの人に敵わないわ。俺のつまんない嫉妬なんて、部長にはまるで歯が立たないんだから」
「なんか……昔より変なオジサンになってる気がする。稜が相手にするような男じゃないよ」
「それで、異動の話は出たの?」
「それがさ、詳しくは食事の時に話すって教えてくれなかった。でも、俺はあの人と食事になんか行かないよ。……稜に嫌な思いさせたくないし、なんか最近のあの人、面倒だから」
井上に誤解されないよう、キッパリと答える。井上は小さく笑った。信じてくれたのか、そして香の誠意が通じたのかわからないまま、車が目的地に着く。
そこは、S県の中心にある繁華街近くのタワーマンションだった。香たちが会いに来た、ストロベリー・バスの新オーナーの自宅がこのマンションの高層階にある。
香は車の中から目的の男に電話し、これから部屋を訪ねる旨を伝えた。事前にアポは取っていたので、話はスムーズだ。男の指示に従い、地下駐車場の来客スペースに車を停め、地下から男の部屋のある三十七階まで、エレベーターで一気に上がる。
目的階に着いてエレベーターを降りると、井上がため息を零した。
「風俗経営って儲かるんですね。……すっげぇ高そうなマンション」
井上は内廊下の毛足の長い絨毯を踏みしめ、羨むように言った。男が高級なマンションに暮らせるのは、風俗経営が儲かるからなのか、暴力団構成員だからかはわからない。
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