D-3

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「二人がしてたのは恋人同士のセックスで……暴力や虐待なんかじゃないって、わかってるんです。二人は意思表示のできる大人で、無力な子供じゃない。好き合ってるし、そうじゃなかったとしても、香さんも井上さんも同意のない性行為を強要するような人じゃない。全部、わかってるのに……」 それなのに、怖くてたまらなかった。いい子だ――その一言が、大輔を過去に引き戻した。 そう、あれは過去の話だ。自分も大人になって、今なら兄を助けることができるし、あの男を止めることもできると、何度も頭の中で自分に言い聞かせている。 けれど、心が現実に追いつかず、幼い大輔に戻ってしまう。戸惑い、怯えるだけだった、無力な子供に。 「昨日できなかってけど……今日もエッチできる気がしません」 こんな精神状態で、セックスなんて無理だった。大輔は死を宣告するように重く伝えたが、晃司は小さく笑った。 「別に……いいよ。今日ぐらい」 「もう一生エッチできないかもしれませんよ。それでも晃司さんはいいんですか? エッチできないくせに、俺、浮気どころか風俗も絶対に許しませんよ」 メチャクチャな我がままを言っている自覚はある。大輔は晃司に甘えることをやめられないのだ。 思い遣りのない甘ったれの大輔に対しても、晃司は優しく笑っていた。そして、握った大輔の手を強く、けれど優しくもう一度握りしめた。 「いいよ。俺には秘蔵の大輔ストックがあるしな」 「……なんです、それ」 聞き慣れない単語に、大輔は思わず布団の中で噴き出した。 「お前の風呂上がりパンイチ姿とか、寝てる時にTシャツが捲れて腹チラ姿とか、色々盗撮してあんだよ。それで抜くから、お前とはセックス抜きでも平気だって話」 「ええ……犯罪じゃないですかぁ」 恋人の突然の犯罪告白だったのに、大輔は笑ってしまった。晃司はスケベでふざけてばかりで――優しい。 笑ったのに、大輔の目に涙が滲む。布団の中でさらに小さく丸くなる。自分の体を守るように。 「なんで、いつまでもこんなに……苦しまなきゃいけないんだろ。あんな大昔のこと、もうとっくに乗り越えたと思ったんです」 大輔は晃司と出会って、過去の傷が癒えたと思っていた。もうあんな昔のことで苦しむことはないと。
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