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K-4
香は、県央にあるO中央署にいた。
県内最大の商業圏と繁華街を管轄にする、大きな所轄署だ。しかし建物は何十年も建て直しされず、あちこちガタがきている。エアコンの効きも悪く、残暑がぶり返した夜中にはキツい職場だ。
多くの捜査員がジットリと汗ばみ、口を開けば暑いと文句を言う中、ひときわ涼しい顔で仕事をしているのは、氷のように冷徹だと揶揄される管理官――香だ。
署内の会議室に設置された伊藤祥太殺害事件の捜査本部は、少し前に入った一報でにわかに忙しくなった。
事件当夜、伊藤の死亡推定時刻と同じ頃、伊藤のアパートの近くで恋人の浅井優菜を乗せたというタクシー運転手が見つかった。運転手の話では、この所轄署からも近いO駅近くの繁華街で浅井を降ろしたという。
浅井は、大きな嘘を吐いていた。彼女は帰ってこない伊藤を心配しながら、翌朝帰宅したと話したが、伊藤がアパートを出たのと同じ頃、彼女もアパートを後にしていたのだ。
捜査員たちの見立ては一致している。伊藤と浅井はなにかの理由で喧嘩になり、伊藤は一人になるつもりで部屋を出て近くの公園に向かった。浅井は伊藤を追いかけ、公園で一人だった伊藤を背後から刺した。公園付近の住人たちは、その時間帯に争う声などは聞こえなかったと話しているから、二人が最初から公園で揉めていたとは考えにくい。
「五島さん、タクシーを降りた後の浅井の足取りを追うのに、駅周辺の防犯カメラ映像を至急集めてきてください。飲食店はまだやってるでしょう。それから大月さん、伊藤のアパートに浅井の私服や下着なんかが置いてなかったか確認してください。浅井は凶器を持ち去ってるから、返り血を浴びてるはずです。おそらく伊藤のアパートで着替えたと思われます。血まみれの女をタクシー運転手が乗せるわけないですからね」
おう、了解です、とそれぞれ答えて篠塚と大月は会議室から出て行った。
香はその後も、O中央署の捜査員たちに細かく指示を出し続けた。浅井の張り込みから戻ってきた井上は、香に戻った旨だけ報告して、明日の朝一で浅井の家宅捜索令状を取るための準備に出かけた。
井上と大輔が二人で張り込みしていたことが気になっていた香だが、今はもうそれどころではない。明日の朝から浅井を、今度は令状を持ってO中央署に連行する。そうと決まれば、捜査員たちにプライベートはなくなる。香も含めて。
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