予告

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予告

深夜の住宅街に停まった一台のワンボックスカー。 静寂に包まれた車内では、スーツ姿の二人の男が運転席と助手席で見つめ合っていた。運転席に座るのは、若い女性が好みそうなさわやかなイケメン。助手席にいるのは、隣の男より十近く年上に見える、好みが分かれる濃い顔の二枚目。 運転席の若い男は血色を失い、整った顔を引きつらせ――助手席の年長の男は分厚い唇を、青くなるほどギュッと噛みしめていた。 どれぐらいそうしていただろう。二人は身動きもできず、無言で互いの顔を見合っていた。 長く重い沈黙を破ったのは、助手席の年上の男だった。人によってはセクシーと感じる腫れぼったい唇が、ゆっくりと語り出す。 「……俺と寝るか、大輔」 大輔、と呼ばれた運転席の青年は、しばらくその言葉の意味を理解できなかった。なぜならそんなセリフ、隣の男が自分に向かって言うはずがなかったからだ。 間抜けな大輔は、それでもまだ呆けて動けないでいた。助手席の男がこちらに顔を近づけてくるまでは――。 (き、キスされる?!) 大輔はやっとこさ事態を――我が身に迫る危機を把握した。 「い、井上さん! ショックで頭おかしくなりました?!」 「お前と寝れば、なんかわかるかもしんないだろ」 井上と呼ばれた年上の男は本気――マジだった。クッキリ二重の目に鋭い光が灯る。 近づいてくる分厚い唇に、大輔の顔色は白から青に変わろうとしていた。額には脂汗が浮かび――。 「落ち着いてください、井上さん! 絶対おかしいですって!」 大輔は身を捩って迫りくる脅威から逃れようとしたが、そこは職場――荒間署から借り出した狭い車の中。逃げようとしても背中に運転席側のドアが当たるだけだった。 井上の右手が伸びてきて、逃げ場を失った大輔の頬に触れる。 (……あれ?) 大輔は目を瞬かせた。男らしい井上の指先が、意外なほど温かく、触れ方も優しかったのだ。 「俺ら、かわいそうな者同士だろ? 今だけ……慰めてくれよ」 いつもどこか軽薄で、飄々としているように見えた男の気弱な声も、大輔の心を揺さぶった。肉厚な唇から漏れた声は切なくなるほど弱々しくて、頬に触れた手を叩けなくなった。 大輔が戸惑っているうちに、井上の顔がすぐ目の前に迫ってくる。濃くて苦手だと思っていた井上の顔立ちは、近くで見るとどのパーツも造作が整っていることがわかった。 迂闊な大輔は、ウッカリ見惚れた。初めて間近で見た、実は美形な先輩刑事の面立ちに――。 (……井上さん、睫毛、長いんだ……) 気づくと、その長い睫毛が触れるほど近くに迫っていた。 二人の唇もミリ単位の距離まで近づき、大輔は井上の吐息を感じて――目を伏せた。
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