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不思議
霊感商法はいまだにある。
人の不安を煽って何かを買わせて暴利を貪る、神経が図太くなければやっていけない仕事。
「ああ。ちょうど認印が欲しかった所で」
詐欺に引っかかりやすいリストで彼の名前があった。
今の俺は印鑑の訪問販売をしている。
若気の至りでマジメに学業に励まず、中卒の俺にできる仕事は限られていて気がつけば23歳になっていた。
まだ印鑑の押し売りがあるのかと思われるが形を変えて残っている。
過去は確かに『この印鑑では不幸になる』や『画数が悪いから変えるべき』とか言って不安や恐怖につけ込んで高く売りつけていた。そのやり方も残っているが、最近は象牙の印材がもうすぐ無くなるから作るなら今、そんな言い方も付け加えた。
実際に今国内で流通している象牙の印材がなくなったらもう象牙の印鑑は消える。だから嘘ではない。
俺は市販では売っていない珍しい名字をターゲットに絞った。
今訪れているのは有加利と書いて「ゆうかり」と読むこの男の家。
「最近認印を使う機会が多くて。病院の固い床にうっかり落としたら欠けてしまったんだ」
ビルを多く持っていて不労所得で暮らしているこの男は最近勧められれば何でも買うと裏社会では有名なお人好しだった。
「今印材持ってきてる?」
わざわざ向こうからリビングに上げてくれて半分詐欺師みたいな俺の話に興味を持ってくれる。
顔色が悪く体も細い、でも美貌のこの男を、最初は馬鹿な客だと思っていた。
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