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リビングに通されると相変わらず顔色の悪い怜さんが膝を抱いてソファにぼんやり座っていた。
すでに用意されていた白いメモ帳に煌さんは朱肉をつけて捺印する。
「お、いいじゃん。見やすい」
煌さんが印面を見ている間、怜さんはケースを手に取りじっと見ていた。
ここでケースにクレーム入れられたくないと思ったが、すぐにテーブルに置いて、煌さんが受け取って実印を入れる。
「いろいろありがと。ケース代で赤字なんじゃない?」
赤字まではいかないが、トントンで儲けは出なかった。
煌さんはジーンズのポケットからシンプルなポチ袋を取り出す。
「鈴木さんへのお礼。弟のワガママを全部聞いてくれてホントありがとね」
「あ…いえ」
「ま、受け取っておいて」
煌さんの勢いに逆らえなかった俺は小さな袋を受け取るしかなかった。
「ところでさ」
さっさと退散しようとした俺を煌さんが引き止めた。
「社長は元気に生きてる?」
立ち上がりかけた俺を視線だけで座り直させて煌さんはにやにやしていた。
「そっか、生きてるか。運のいいやつ」
煌さんの言葉に、俺以上に興味深々な顔をした怜さんがいた。
「どうせまた悪巧み考えてるだろうな」
深々とソファに座って見下ろすような感じで俺の反応を楽しんでいた。
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