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男か女か、判別の付きにくい容姿を持った美貌の少年は、クス、と嘲るような笑いをこぼす。
「謝罪して貰って、この身体が元通りになるなら喜んでして貰うけどな。無理だろ?」
『身体が元通りになる』。
その言葉の意味は、部外者には理解できないに違いない。
一見したところ、少年の身体に異常なことは何一つないからだ。
しかし、ウェルズと少年の間では、それだけで何の話をしているかは瞭然だった。
「そっ……それなら、私を殺したって同じことだろう! そんなことをしても意味がない!」
「意味がない?」
少年の唇に刻まれた笑みが、益々深くなる。
比例するように、深い青の瞳は冴え凍るような昏さを帯びていった。
黒のハーフミットで覆われた細長い指先に、パシン、と乾いた音を立てて青白い筋が踊る。
「意味ならあるさ」
しなやかな足が無造作に、だが隙のない身のこなしでまた一歩、ウェルズのほうへ踏み出される。
顔色をなくしたウェルズは、急に壁を通り抜ける能力を得たかのように、尚も壁へ背中を押し付け続けた。
「なっ……な、何の意味があるって言うんだ! 頼む! 頼むから、命だけはっ……!!」
「命だけは?」
途端、彼の言葉を面白がるようだった声音から、感情が削げ落ちる。
「命だけは、何だよ。助けて欲しいって言うのか? あんた、今更どの口でそんな戯言ほざいてんだよ」
ウェルズは、頷いたらいいのか、首を振ったらいいのか分からない体で、ただひたすら震えていた。
「じゃあ、あんたらが俺の身体にしたことは何だって言うんだ? 俺がいつ、あんたらに頼んだよ。こんな、――歩く殺戮兵器にして欲しい、なんてよ」
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