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「まあ、否定はしねぇけど」
「ならば、我々フィアスティックの配下だろう」
ヒューマノティックに対し、フィアスティックは動物ベースのスィンセティックで、種類は狼に限らない。
路地側にいた狼型フィアスティックが、ジリッと一足、エマヌエルに歩を進める。まるで、先刻のエマヌエルとウェルズの再現だ。
「最後にもう一度訊く。きちんと答えねばこの場で貴様も処刑するぞ。所属と識別ナンバーは?」
「何度訊かれても俺の答えは変わらねぇよ。そんなモノはねぇ」
ゆったりと答えた直後、もう狼たちの反応を待たずにエマヌエルは人差し指と親指を輪のようにして唇へ当てた。
ピィ――――――、と甲高い指笛が響く。
「何っ……!」
エマヌエルの意図を図り兼ねたのか、狼たちが色めき立つ。
それに頓着することなく、エマヌエルは足に意識を集中した。雷鳴に似た音と共にふくらはぎの辺りへ青い糸状のスパークが飛び跳ねる。
増強した脚力で、エマヌエルは思い切り地を蹴り跳躍した。エマヌエルの浮遊到達点に、絶妙なタイミングで巨大な鳥が滑空してくる。
通りがかったその足に掴まってその場をあとにしたエマヌエルは、ふと感じたものに、目を瞬かせた。次いで、首ごと視線を巡らせる。
「どうした?」
エマヌエルの挙動に気付いたのか、掴まった足の主が、耳障りのいい重低音で訊ねた。見ている一般人がいたら、巨大な鳥――鷹が喋っている、と悲鳴を上げるだろう。
「……いや……」
明るさに左右されることのない視界に、すでに怪しいものは捉えられない。感じた違和感も掻き消えている。
内心、首を傾げながら、何でもない、と返したエマヌエルは鷹の背へよじ登り、しばしの空中散歩を楽しんだ。
***
「――おい、エマ。お前、昨夜随分派手に色々やらかしたらしいな」
起き抜けでリビングに入るなり言われて、エマヌエルは眉を顰めた。
「……何の話だよ」
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