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彼の逆卵形の輪郭の内には、切れ上がった目元が縁取る吸い込まれそうな深い青色の瞳、通った鼻筋に薄く引き締まった唇が、これ以上ないくらいの絶妙な配置で収まっている。
一見して、『超絶美少女』としか表現できない容貌が、不機嫌そうな表情を浮かべた。
細くしなやかな指先が、艶やかな黒真珠を思わせる長い髪を無造作に掻き上げる。噛み殺し損ねた欠伸の残滓が漏れそうになり、唇を空いた手の甲で覆い隠した。
隠せなかった間抜けな音は、すでに朝食の席に着いている男の耳にも届いたらしい。
楕円の眼鏡の奥から理知的な焦げ茶の瞳で、エマヌエルを無表情に見つめ返した男は、自身の前にあったパソコンを操作し、エマヌエルのほうへ画面を向けた。
表示されていたのは、何かの動画だ。
再生一秒で、寝起きの空きっ腹に響くような爆音が上がり、ビルの隙間から人影が飛び出してくる。その人影は、直後に滑空してきた巨大な鳥の影にさらわれて消えたように見えた。
〈ある視聴者からの投稿です〉
画像からは、ご丁寧にアナウンスも流れてくる。
〈場所は、ヴィーリンハ・シティ3番地。夜中に爆音が上がったという通報もあり、アルムニア通りにあるアパート一階付近には、明らかにフィアスティックに襲われたと思われる被害者の腕も残されていました。この巨大な鳥は紛れもなくフィアスティックで、当局はこの巨大鳥の行方を捜索すると共に、近隣の住民に注意を呼び掛けております〉
「……世の中いつでも暇で命知らずな奴って一人はいるよな」
覚えず、呆れた声音の感想が漏れた。
同時に、昨夜あの場を去る間際に感じた違和感は、この撮影者の視線だったのだろうか、と思った。
この映像の距離感からすると、かなり遠方から撮っている。これだけ距離があれば、フォトン・シェルも届かないとでも思ったのだろうが、とんでもない間違いだ。
相手がエマヌエルとその連れである巨大鳥でなければ、今頃この撮影者の命もなかっただろう。
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