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のろう、のろう。
「お願い、ユカリン!お金貸して、絶対返すから!!」
「ええ、またぁ……?」
私は呆れてものも言えない。目の前で、土下座せんばかりに両手を合わせている女性は、私の学生時代からの友人である恵である。昔は清楚で大人しい印象だった彼女。何をどう間違えてしまったのか、髪の色を明るく染めてジャラジャラと謎のネックレスやら触れっスレッドやらを大量にぶらさげる派手な女と化している。そこそこ混み合う駅前広場の前でさえ、それらが擦れるじゃらじゃらという音が甲高く響くほどの量だ。
一体、それらのアクセサリーにどれだけ金をつぎ込んだのだろう。持っているバッグも靴もコートも、会うたびに別のものに変わっているから尚更だ。ちらり、と視線をやった彼女のバッグには、そちらの世界に疎い私でさえ見覚えのある大手ブランドのロゴマークがデカデカと入っている。
「いい加減にしなよ、恵。いくら親友だからって限度があるよ。私が今、あんたに総額どれくらい貸してるかわかってる?」
「そ、そこそこでしょ?大した額じゃ」
「全部エクセルデータにまとめて記録してんだからね。ウン十万円に上ってるのは間違いないから」
「ええ……」
私がそう言うと、それだけ借りている自覚があったのかなかったのか。彼女は口を尖らせてぼそっと、細かい女は嫌われると思うけどー、とぼやいた。
「友達にちょっとお金を貸すってだけで、そんなに細かく記録とかつける?普通。ケチいなあ」
「そうだね、本当にちょっと貸すだけだったらわざわざつけなかったかもね」
少し前の私なら、この言葉でキレて踵を返していたことだろう。だが、今はこの程度ぼやかれるくらいで怒ったりはしない。もうそんな気持ちはとっくに通り越しているというのもあるし――何より、心配の方が勝るからだ。
「だから最初に貸した数千円分くらいは記録つけてないよ。……あんたがあんまりにも繰り返すからつけるようになったの。つまり恵のせい。人にケチだなんだと文句言うくらいなら、借りたお金をちゃんと返しなよ。それができないなら借りなきゃいけないようなショッピングなんかするもんじゃないの、もういい年した大人じゃん。そんな小学生でもわかりそうなのこともわかんないって、マジでヤバいからね?」
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