鶴太郎の恩返し

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 それでも老夫婦は、次はどんな金になる商品が出来あがってくるのかと、毎朝楽しみにしていた。しかし男はいっこうに、換金できる何ものをも生み出してはくれなかった。  そして一週間後の朝、とうとう痺れを切らした老夫婦は、早く商品をよこせとばかりに、二人で左右から同時に、勢いよく奥の部屋のふすまを開け放った。  すると部屋の窓から、ガリガリに痩せた一羽の鶴が飛び立ってゆく姿が目に入った。鶴のあばら骨は、もうほとんど剥きだしになっているように見えた。  お爺さんはとっさに、以前森の中で助けた富士額の鶴のことを思い出したが、あのときの鶴はこんなにガリガリではなく骨太な印象があったため、すぐにそれが同じ鶴だと気づくことはできなかった。  それから老夫婦がともにガリガリに痩せ細り、当然訪れるべき餓死を迎えるまでにそう時間はかからなかった。二人はすっかりこの男であり鶴であるところの、つまり一般には「鶴太郎」と呼ばれる男の気まぐれな生産能力をあてにするようになり、自ら働くという概念を、すっかり失ってしまっていたのだった。
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