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鶴太郎の恩返し
むかしむかし、北の国の山奥に、とある老夫婦が住んでいた。ひどく雪の多い冬だった。
ある日、お爺さんはたまの晴れ間を縫うように、森へ柴刈りに行った。森の奥へと歩いてゆくと、さっきからずっと鳥の鳴く声がしていることに気づいた。それは「キューちゃん、キューちゃん」という、なぜか「ちゃんづけ」の、九官鳥のような独特の鳴き声であった。
お爺さんが声の聞こえるほうへ歩みを進めてゆくと、雪の中でもがき苦しんでいる、すこぶる富士額で骨太な鶴の姿が目に入った。鶴はその足を、錆びついた金属製の罠に挟まれて身動きできずにいるのだった。
お爺さんが罠をはずしてやろうと苦戦していると、鶴の周囲に禿げ散らかしたヒヨコの一隊が集まり、鶴のまわりをよちよち歩きながらピーピーと鳴きはじめた。そのヒヨコらしい鳴き声に続く後半は、「ピーヨコちゃんじゃ、アヒルじゃガーガー」と日本語のような響きを持っていた。ヒヨコたちはどうも、鶴をリーダーと仰いでいるようだった。
なんとか罠を解除してやると、鶴はお爺さんに丁寧なお辞儀をひとつして飛び去っていった。ヒヨコたちも、列をなして森の奥へと消えていった。鶴とヒヨコがあんなにも仲良くしているところを、お爺さんは初めて見たのだった。
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