化けて出るから

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 目が覚めた。カーテンの隙間から、憎らしいほどの陽光が差し込んでいる。  頭は重いが、酔いが残っているという感覚はない。  口の中で舌を回し、水割りの残り香を探す。粘っこい唾液の感触があるだけだ。夢だったのだ。呟いた。  我ながら、センチメンタルになっていたものだ。柳瀬は自嘲気味に笑い、カーテンを開けた。  ふとサイドテーブルに目をやり、息を呑む。  グラスの中に、まだ氷が溶け残っているのだ。角の取れた氷が、水に浮かびながら煌めいている。柳瀬が自分で水割りを作ったのは、零時より前だった。氷が室温で溶けきらないはずがない。  柳瀬は息を長く吐き、こみ上げてくるものに耐えた。目を閉じる。瞼の裏に、彼女の背中が浮かんだ。情けない。彼女は柳瀬の現状について、そう言っていた。  変わらなければいけない。彼女の面影を追い、思い出の中の味に心を委ねようとしていた、弱さ。  目を開けた。部屋中が、日差しのせいで明るい色に染まっている。嫌いな時間だった。夜以外の時間は、柳瀬にとってはどうでもいいものだったのだ。彼女を一番輝かせるのが、その輝きに寄り添っていられるのが、夜だった。  そんな夜への依存も、捨てなければならない。  短く息を吸い、グラスを掴む。  キッチンへ行き、グラスの中身を流しに捨て、また戻ってくるとウイスキーを注いだ。  口の中に放り込む。舌に、痺れるような刺激が走った。  喉が灼け、胃の中がカッと熱くなる。目を閉じ、開く。  視界ははっきりしている。  俺は生きているし、生きていく。  胸の中で呟いたそれは、身体中で痛切に響き渡った。
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