第1章―不思議な力―

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【2】 昼休みになった。 購買に昼食を買いに行く生徒で 教室も廊下も騒がしくなる。 「そういえばハヤテ、お前 堀内さんとは何もないのか?」 「何もって?」 「小学校から一緒の幼馴染なんだろ? 付き合ったりとかしないのか?」 ニヤニヤした顔が少し腹立つが、 潤にしてはなかなか鋭い質問をしてくる。 オレは遥花のことが好きだ。 中学の時からずっと。 ただ、その気持ちを伝えたことは 一度もない。 理由はふたつある。 ひとつ目は今までの距離が余りに 近すぎたこと。 お互いの家は当たり前のように行き来 しているし、おじさんとおばさん、 つまり遥花の両親に誘われて夕食を共にする こともある。 距離が近すぎてもはや兄妹みたいに感じるのだ。 告白して付き合うことになっても 他のカップルのようにはなれないだろう。 そして、ふたつ目の理由。 それは、遥花を失うのが怖いから。 もし仮に告白に失敗したらどうなるだろう。 遥花はさばさばした明るい性格だから 1週間もすれば普通に話しかけてくる かもしれない。 でもそれはオレがこれからもずっと 続いて欲しいと願っている関係じゃない。 一度墨を入れてしまった水バケツに どんなに水を継ぎ足しても ”純度100%の水”には戻らない。 表面上は仲のいい幼馴染に戻ったとしても それは今の関係とは違うのだ。
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