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 頭を下げながら、胸はドキドキと鳴り、手は震えとった。  うちは……うちは……、と懸命にお詫びの言葉を考えていた。  その時。 「おかあさんが謝る事じゃありません。顔を上げてください。その妓が育ってくれれば良いのです。僕はまた、彼女を指名しますから。ほら、君も顔をお上げ」  次も、指名?  そっと顔を上げた目に、眼鏡をかけはった綺麗なおにいさんが映り込んだ。  座敷に上がった時は緊張のあまり周りを見られへんかったうちは、初めてその方のお顔を見た。  こんなに上品な気品溢れる男はんを見たんは、初めてやった――。 「おかあさん、この妓は〝半だら〟だね。お見世出しの日取りは?」
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