8/9
前へ
/30ページ
次へ
「そういえば……上七軒のうちの知り合いの芸妓はんが、あの若旦那はんに鳩に目書いてもろた、と言うてはりましたなぁ」  胸がズキンと痛んだ。  上七軒? あの方が松の内に回らはるお茶屋さんは祇園だけやないんやね。しかも、祇園甲部は最初やないんやね。  おかあさんが湯呑み茶碗を口に添えお茶を啜りながら、そうやなぁ、と話し始めた。 「あのお方は忙しい方どすけど、松の内は御贔屓のお茶屋は全て回りはるんどす。上七軒から始まって、先斗町、宮川町、祇園東。祇園甲部は一番最後なんえ」  祇園甲部は一番最後。  なんだか、うちが一番後回し、言われたみたいな気ぃになってもうた。胸が、痛うて、苦しい。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加