53人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「梅扇さんねえさん……これは?」
それは、うちがまだ〝仕込みさん〟呼ばれていた頃。
舞妓になる為に、東京から京都の祇園に来て、初めて迎えたお正月。うちのおねえさんである梅扇さんねえさんが、一房の稲穂に素焼きの白い小さな鳩がついた簪(かんざし)を見せてくれた。
「姫花ちゃんは祇園の正月は初めておしたな。この稲穂の簪はな……せやな、花街版バレンタイン、と誰かが言うてはったな」
お支度が終わった梅扇さんねえさんは日本髪に結った鬘に、その、稲穂の簪を挿して笑た。
花街版、バレンタイン?
首を傾げたうちに、梅扇さんねえさんが意味ありげに微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!