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第9話 威厳 無し !
「急いで ! 」
全員がバタバタとトーカの部屋に抜け出す。
「マグヌス、ゲート解放に謝辞を」
「んなもん後でやってよね ! 」
着替え中のトーカを残し、つぐみんがすごいスピードでエレベーターへ俺たちを引っ張り込む。
「セルはすぐに着替えて、挨拶に行って ! 教会の中とか献金の帳簿とか大丈夫なんでしょうね !? 」
「あ、ああ。そういう金はオールグリーンさ」
「ジョル。あなたが一番不安だわ。セルの部屋から非常階段を使ってしばらく暇を潰して。楠崎さんを呼び戻すから」
つぐみんが10階のボタンを押す。非常階段はつぐみんの2階にもあるけど、俺は着替えさせられるし……判断がエグいほど早い。
「おいおいジョルもうちの一員だぜ ? 」
「バカね。監査に来る人間が無能な訳ないでしょ !? 非公認だとしても目をつけられてるエクソシストチームなのよ ? それも訳あり現職神父常駐の。ルシファーの眼は今、外部に公開するべき存在じゃないわ」
そうは言っても、その神父がヴァンパイアなんだから、今更なんだよな。
「私は同人の原稿まとめなきゃ。いい ? 私の職業は絵馬師よ !? 漫画家じゃないからね ? 」
んな無茶な。エロ同人のイメージ以外ねぇよ……。
「ユーマは俺と来てくれ」
「うぅ……俺、やっぱコスプレするの ? 」
「見習いって事にするから、私服でもいいんだけど……神父の色合いじゃないだろお前。ロザリオだけでも持って。『神父になろうか迷ってるから見学中』とでも言ってくれ。TheENDが使えるだけで連中にとって価値がある。邪険には扱わないだろう」
「う〜ん。そのくらいならいいけど」
ボロが出なけりゃいいけどよ。
最近思うけど、俺……無宗教だわ。仏教徒なんだと思ってたけど親は違うみたいだし、だとしてもゾロアスター教に知識があるわけでもない。そもそもミスラの言う通り、俺自身は信仰するものがない。そもそもヴァンパイアが神父ってどうなんだ ? 昔、ヴァンパイアにはニンニクや十字架が効くとか言う話があるくらいだし、キリスト圏内の生き物って括りなのか…… ?
俺とセル、そしてジョルは10階に降り、つぐみんは2階へ降りていく。セルは塔屋のセンサーを切りジョルを外に出した。
「おい、一人で大丈夫か ? 」
「大丈夫ダ ! 雲雀さんに電話すルからさ ! 」
「そっか。こっちも終わったら電話するよ」
本人、気にした様子じゃないからいいけど……。まさか相棒をほっぽりだす事になるとは……。
「セル。俺にも期待すんなよ。キリスト教なんて『アーメン』くらいしか知らねぇからな?」
「アーメンだけって……。この三年何してたんだよ……」
「こっちが聞きてぇよ。エクソシストの依頼と店の営業時間以外の他人の仕事をみたのなんて、今日のトーカの石の使い方と大福の経くれぇなんだから。なんなら教会にいるお前が一番わからん俺」
「え、俺の礼拝誰も聞いてないの?スマホで見れんのに?メンバー誰も見てないのか」
見てるわけがない。
見るわけがない。
カトリックのトーカさえ見てない物を、仏教徒二人と、宗教不詳の俺と、ルシファーの眼が。
見るはずがない。
見てたら……多分冷やかしの類か、お前の敵だよ。
「ほら、これかけて」
セルがキャソックの上から帯みたいなのを首にかけてきた。結局着せられたけど、違和感しかない。
でも、俺もBLACK MOONが無くなったら困るしな。
「ま、知識は無いにしても、俺も大人だし !? 何とか話合わせるぜ ! 」
フッと格好つけて振り向いて笑って見せたが、だぁ~めだうちのポンコツ。滝のような汗かいてる。
「ちょ……アンタしっかりしろよ…… ! 」
「……急に動悸が……すぐに収ますし」
「治まるしだろ ! 噛んだ挙句に誤字やめろ ! 」
やめろよ、不安が伝染しちまうよ。
****************
店に降りるとスーツ姿の男女ペアが座りもせず立っていた。
女のほうはショートカットの髪をピシッとオールバックにしてキツい印象の眼鏡をかけている。二十代くらいでかなりの美女だが、取っ付きにくそうだ。
男は三十代後半ってところか。同じく潔癖そうな身なりだが、女のほうに比べて表情は柔和な感じだ。
セルは慌てて二人の前に出る。
「すみません。少し取り込み中でしたので……」
「初めましてローレック神父。お会いできて光栄です。
問題ありません。その間にお店を見せて頂きました」
「はぅぐっ、そうですか!はは……。なにトド……何卒宜しくお願いいたします」
なんだ今の鳴き声。勘弁してくれしっかりしろ!
トーカと大福がハラハラとこっち見てるの痛いほど感じる。
「どうぞ掛けてください。コーヒーでも?」
「いえ、先に見学を。その後、少し聴取させていただいてすぐ終わりますので」
取り付く島もない。
こーゆーのはあれか。よくワールドニュースで見る、教会の怪しい不祥事の証拠隠滅を防ぐためか。
「このビルに全員が寝泊まりを?」
「ええ。寝食を共にした方が連携がとりやすいので。ミアのこともありますし。
ただ、親御さんのいる子は自宅から通ってます」
「その方は未成年?」
「ええ。ですが、生まれつきのRESET使いで……逸材と言えます」
「なるほど。
次は教会を見せて頂いても ? 」
「勿論です。こちらです」
セルは二人の調査員をエレベーターに通し、どさくさに紛れて俺も押し込んだ。
「貴方は何年目なの?」
ぎっくぅっ !!
え?俺に聞いてる?そだよな ! どう考ええてもああああ怪しいもんな俺 !!!!
「ま、まだ見習いっすねー。ここにきてセルの仕事見てー、なんか興味わいたんでぇ」
そう。着飾るより自然体だよな ! いつもの俺で !
「……その言葉使いでは、まだ信者さんの前には立たせられないわね」
「がっ……ぐっう……」
うっせーよ。俺に信者はいないんよ!
「こちらです」
七階。深紅の絨毯と正面に聖書の置かれた祭壇。そして左側にオルガン。
「七階なのね。ふーん。good。清潔感がある」
「毎日清掃を?」
「ここは普段外部の人間は来ませんので、二日に一度くらいですね。
ああ、でも最近は彼がいますので、助かります」
数えるほどしか入ったことないですね、本当は。口が裂けそう……。ムズムズする。
「ウォルター、他のところも見てきて。ローレック神父、同行をお願いします」
男の方がセルを連れてオンライン配信室へ侵入していく。俺は女の方と残ったが、二人の姿が消えてから、堰を切ったように質問攻めに合う。
「ローレック神父はどう?」
どう?とは?
え?ポンコツですけど?……とは言えないか。
「とても信頼できるいい先輩みたいな感じデスネ」
くっそ恥ずかしい !!
別にセルがポンコツなのは事実として、別にここで生活する間不満は無いもんな。寧ろ雇用されてるし、昔より経済的に余裕も出て、大福がいるせいか毎食美味いものを食う日々。
でも、尊敬してるって違くね ? なんか意識すると……やべぇ!俺、ジョルほどじゃねぇけど顔に出んだよ!
「これまでに教育や信仰のためとして、同意のない暴力を受けたことはありますか?」
「え……。無いです。えぇ !? 怖い !
これ実際に『はい』ってことがあるんすよね?」
「……」
無言。なんなのマジで。この人すげぇ睨んでくんじゃん。怖ぇぇぇ〜 !
セルと男が戻ってくる。
「オンライン室も問題なかったです。
あ、先週の日曜礼拝は拝見させていただきました。個人の感想ですが、予想以上に視聴者がいて驚きました」
セルの顔に「あっぶねぇー!セーフ!!」って書いてあんな。
「他の……ミア以外の女性従業員と話をしても?」
「ええ。構いません。案内します」
エレベーターに戻り、今度はつぐみんのいる二階へ向かう。
エレベーターの扉が開くと、すぐ目の前に衝立がある。
「鍵がないなんて…… ! 完全なプライベート空間とは言えません。改善をオススメします」
うん。俺も最初はびっくりした。エレベーター出てすぐ部屋だもんな。だってここただの廃ビルだし。
「あ、どうぞ」
つぐみんがひょっこり顔を出す。同人誌の片づけ間に合ったか。
「初めまして。大場 つぐみと申します」
大場さんって誰だっけ ? って微笑みで手を差し出す。
「よろしく。ソニアよ。こちらはウォルター」
「ウォルターです。よろしくお願いいたします」
「つぐみん、少しアトリエを見せてほしいんだ」
つぐみんは頷くと、中へ案内する。
「私は仏教徒ですが、仕事で死者との結びつきが多い点では職業柄、共通していることもありますので、異文化交流という感じでここで生活してるんです。とても勉強になります」
うわー。完璧な受け答え……。
「死者との結びつきとは?」
ソニアが風景の描かれたキャンパスを見て聞き返す。
「日本古来、東北地方の特殊な死者供養です。私は山形県のその家系の子孫でして。
『ムカサリ絵馬』とはご存じですか?」
「聞いたことはあるわ。冥界婚ね?最初に中国で見たときはショッキングだったわ」
「そう感じるかもしれませんね。日本は絵や人形で行います。
これが現物ですね」
本当に書類サイズ……A4くらいの大きさの紙に、和装の女性となんかよく見る在り来りなイケメンキャラが寄り添った絵だ。
「書きかけですが、依頼を受けてからお相手を遺族の方に提案してもらい、その後故人と伴侶を描き、お寺に奉納します。
現代は伴侶が人とは限りません。アニメ画やCGを持ち込まれる方も多いんです」
「使うのは画材だけですか?」
「……?写真の方もいらっしゃいます」
「故人のナニカを必要としますか?」
ナニカって、呪術的な?髪の毛とか?
「いえ。遺族が大切に扱い、人形に服を着せたりする事などはありますが、ムカサリ絵馬は基本的に描くだけなので。
そうですね。他のアジア圏の冥界婚とは違うと思いますよ」
「そうですか。とても興味深いです。
普段ローレック神父とは仲がいいですか?」
俺と同じ事聞かれてる。でも、つぐみんは一瞬ぽかんとしたが、何故か急に引き攣った笑みで答える。
「あー……まぁ。大人同士ですし、付き合いがないわけじゃないんですが……その、個人的には興味がないというか、無関心……あ、いい意味でですよ?えーと……」
なんか、つぐみん……噛み合って無くね ?
「干渉してこない分、そういえばセルの事って、あんまり知らないなって最近疑心暗鬼になってますね。イライラしました。
今は関係修復中です」
「……なるほど」
なんか、セルが一方的に振られたのを見た。
「高圧的な態度をとられたりは?」
「あー。してほしいですね。一応まとめ役なので。いつも温和なのが癪に障るときがあります。
トーカ……ミアの負担が大きくて新人教育も鈍いんですよねぇ。神父の仕事はちゃんとしてますけど、他は期待してないって言うか」
つぐみんめっちゃ言うじゃん ! 不満爆発じゃん !! なんで今日に限って ! 下克上か !? 内部告発まがいだ !
「お……オーケー。わかったわ」
「神父はよく分かりませんが、上司でいる分には無害だけど、身内にいたら……彼氏とかには絶対ムリですね」
つぐみんもうやめてあげてくれ。
セルを見たら、隣でしょぼくれてた。同僚部下の女性にここまで言われると傷付くよな。
でも、俺もそう思う !!
ポンコツを自覚して !!
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