第11話 それぞれのルーツ

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第11話 それぞれのルーツ

 普通だ。シューズボックスのある玄関に、箒と塵取。花瓶と木彫りの熊。真っ直ぐにフローリングの廊下が続き、右手にユニットバス。奥に二部屋。ダイニングキッチンと……多分寝室かな。襖があって見えないけど、その襖も所々謎の大穴が開いてる。  ニャーン  お前だな ? 破壊の犯人は。  真っ白な猫だ。青い首輪が付いてる。毛並みを見るからに、かなり大事にされてるみたいだな。ツヤツヤふわふわ。触りたいけど逃げられる。  襖の大穴以外、ただの一人暮らしの女性部屋だ。オカルト的なグッズなんか一つも見当たらないし、パッチワークが趣味なのか壁掛けや炬燵のカバーなんか、多分手作りだよなコレ。  台所は丸見えでとにかくものが多い。漬物樽や調味料なんかだ。ハーブもあるけど、トーカが使うような得体の知れない物とは違う。  生活感があるな。慎ましくも、健康的に自炊して老後を楽しむ余裕がこのリタにはあるんだろう。  それがなんで俺たちみたいなのと関わりがあるんだか。セルなんて余計にだ。 「あ、お構いなく……」 「馬鹿言え〜 ! 客に茶も出さねぇ奴いねぇだろ〜ん ? 」  茶を入れ始めたリタをつぐみんが止めるが、ピシャリと言い返されてしまう。 「ああ、では手伝います。キッチンに入ってもいいですか ? 」 「なんだい、ぃいゃ〜だ〜ん。あんたいい女だね〜。男いんのかい ? 」  ねちっこいのは元々なんだな。気にしないようにしよう。 「いや、そういうのは……」 「早く結婚して、クソ神父のとこなんて辞めちゃいなよぉ〜」  丸聞こえの会話に俺ら男性陣全員が固まる。 「オバチャンの勢いって凄いンダ。俺の母ちゃんもあんな感じダ」  ジョル、余計な事を大声で。 「……ゲフンゲフン。おい、やめろ」 「あー……えっと……。  セル、リタさんはここで仕事取ったりしてんのか ? 」  沈黙に耐えきれなくて俺が負けた。 「いや。ここは本当にオカルトとは関係ないんだ」  え…… ? じゃあ、なんでセルはここに来てるんだ ? そもそもどういう関係だ ?  茶と菓子が並べられた所で、リタがようやく席に着く。 「さぁ、顔を見せておくれ〜」  リタが第一声、ウォルターに向ける。向けられた顔をマジマジと覗き込み、懐かしそうに微笑む。 「あぁ……似るもんだね……。面影があるよねぇ。本当にあんたの爺様にそっくりだわ〜」  爺様 ? ウォルターの祖父ってことか ? 「リタ。実はバチカンの一件を仲間に話す機会に恵まれてね。今、BOOKを見てる最中だったんだ。  そこにたまたまウォルターが店に来たから、これも縁があってのものかと思ってね」 「ふぅーん」  リタは湯呑みをテーブルに置き、俺たちを見る。 「それよりも、あたしの自己紹介が先の方がいいんじゃないのかぁい ? 」  そうですね。気になってますね、かなり。 「リタは偽名だよ。あんたらと同じで、本名は市役所でしか使ってないようなもんだ。  ただし、悪魔や呪い対策じゃないわねぇ。  あんたら、セルが医療免許持ってるのは知ってるの ? 」 「はい。確か、精神科医だったはず」 「そうそう。とは言っても、例外を除き医学部卒業しないと医者になれないでしょ ? この子が日本に来た頃は日本語も魔法使って話してたし、勉強どころじゃないわけよん。  今は食堂にボーズがいんだろ ? 何時でも美味い飯が出てくるんだ、あんたら感謝しなよ〜。  ま、セルシアが日本に来たばかりの頃、医療免許を取るまでの間、あたしが身辺の世話人をしてたってところかね 」  なるほど。日本の実家って感じなのか。 「何故リタさんが ? 元々面識があったんですか ? 」 「面識はコッチ」  そう言ってウォルターを指差す。 「あたしをバチカンに勧誘してたのが、この子の祖父でね……あぁ、それで揃って連れてきたわけだね ? 」  なにかに納得した彼女は一度お茶で口を潤す。 「セルシア、BOOKをどこまで見せたの ? 」 「バチカン行きになったところですね」 「それじゃ重要なところが全く伝わんないじゃないか ! 」 「ウォルターが来て中断されて……」 「まぁ、いいわ。  その一件が何とも難しい事件だったらしくてね。あたしにも招集がかかったんだよ。でも本業が忙しくてね。結局、行かなかったんだけど……死人が多く出たとは後から聞いてね。  正直、あたしにゃ関係ないって言ったんだけど、生き残った神父を日本に送るから面倒見て欲しいって言われてね。ほら、白薔薇のダンディがいるだろ ? あいつにさ〜」 「セル、最初は東京にいたんじゃないの ? 」  俺もそう聞いてたな。 「上京したのは医療免許取ってからだよ。  元々、ここから近いボロマンションに居て、あたしが通ってたんだ。トーカは料理できないだろ ? だから寮母みたいなもんだね」  トーカの料理って、そう言えばなんか怖かった気がする。 「あの、リタさんは蓮司さんとはどういう… ? 修道士にも見えませんし、バチカンとは無縁なんですよね ? 」 「んー。そうなのぉ〜ん。困るわよねぇ〜。  それはまぁ、あたしの家業の関係でね。  この面子だから隠しもしないけど、あんたら他で言ったら呪い殺すからね ? 」  怖ぇよ! 「はい。肝に銘じておきます」 「あたしの母親はホトケオロシをやっててね」 「ホトケオロシって、ナンダ ? 」 「口寄せとも言うね。イタコさんみたいなもんだ。死者を体に降ろして会話をするんだ」 「スゲー ! 」 「だろぉん ? あんた、愛想のいい子だね ! ジョルってんだっけ ? 」 「ウケケ」  こいつ女は見境無しかよ ! 「あたしはその巫女の血を強く惹いちまってさぁ〜ん。そんでオカルトや宗教的な連中によく声をかけられるって訳ぇ。  でも本業は医者なんだよぉ。父親がやってたのを継いだんだ。開業医ってわけじゃないけど、まぁ金さえ払えば人を助けるよ〜ってねぇ。当たり前だろ ? 医者なんだからさぁ〜」  それって……つまり……。 「それにこの母方の才もあってか、分かっちまうんだよ。  人を視るとさ、患部の悪いところに黒い霞がかかってるように見えたり、悪臭がしたりねぇ」  オカルトに精通した医者………。  まさに俺が初めてセルに会った、聖マリアンヌ病院での男児の悪魔退治。あの時電話を俺にかけてきたセルは、医者であり、悪魔の存在に気付いてもいた。  その原点はこのリタにあったのか。 「じゃあ、リタさんはセルの師匠って事 ? 」 「そうだよぉ〜 ? 」  ニヤつくリタとは真逆にセルは首を横に振る。 「別に師って事では……。  前にも言ったけど、悪魔祓いをする時には医者の同席が義務付けられてるんだ。けれど、肝心の医者がバンバン取り憑かれまくるから、結局、悪魔祓いする神父の身内で医療免許を取るしかないんだよ。あと少しで祓えるって時に、変にドクターストップかけたりするから迷惑なんだ」 「何言ってんだい、そりゃ志望動機みたいなもんだろぉー ? 勉強にはあんなに付き合ってやったじゃんかぁ〜ん」 「……それに関しては、はい。感謝はしてるもん……」  おい、押されんな。こっちが気まずくなるよ。 「バチカンの一件をこれから観るけど、あの時、俺と同席した神父がウォルターの祖父なんだ」 「あぁ。そう言う事だったのか 」  そっか ! だから繋がりや縁がって話だったのか……。監査にしてはウォルターは顔見知りのようだったし。 「……だとすると、タイミング良すぎねぇ ? 」 「俺もそう思う。虫の知らせか何かの妨害か、吉凶か……迷うことがある度、俺は今でもリタを頼りにしてる。  東京を出る時、山形以外となったら、リタのいる宮城以外選択肢は無かったくらいだよ」  分かった。これ師匠じゃなくてお袋状態だ ! 「霊験を上げるだけなら適した場所は確かにあるんだけどぉ〜。山形はエクソシストなんかお呼びじゃないのさ。今も神聖な山と海に囲まれた土地さぁ〜ん。更に民間信仰が強いから、商売になんてならないよって言ったんだ」  そう言えば、トーカからも『大福が山形は土地のエネルギーが強すぎると言ったからやめた』って聞いたな。でも、そう言われると、なんか行ってみてぇな山形 ! 「俺としては、悪魔憑きは無宗教の都会の人間って無縁な傾向にあるんだ。だから信仰深く、更に大都市圏じゃない方が……って思ったんだけど……」 「無茶な考えだわ」  ここまで聴いていたつぐみんが、呆れた様に頬杖を付いてセルに笑う。 「東北でも山形は霊能激戦区よ」 「祓魔師が多いノカ ? 」 「ううん。死者に対しての扱いや弔いが正確だし、今どき鼻で笑われるような呪いや狐狸妖怪の話が現役で存在する地域なの。  言うなれば、私の霊感は後から覚醒したものだけど、絵馬師も強い人が多いわ」 「そう。語り継ぐべき人間がしっかり伝えてんのさぁ」  民間信仰か……。つぐみんのムカサリ絵馬がまさに独特なソレだよな。 「リタもセルと同じセーシンカ医なのカ ? 」 「んにゃ、あたしは外科だよ。内科も。  医学部って一通り習った後に何科になるか〜だからね。父の跡継ぎだし、傷の縫合や手術が出来なきゃ意味ないだろ〜ん ? 」  客層は聞かないでおこう。 「言ったように、俺はエクソシストの糧にするための精神科医だから」 「ペーパードクターだな」 「……そうだけど。知識はあるもん」  そこははっきり否定しろよ ! 「それより、ユウマとやらぁ。あんたウォルターと少し話した方が良さそうだねぇ」  突然のリタの物言いに、俺もウォルターも顔を見合わせた。 「ウォルター。あんたの爺さんの名前をこの子に教えてやんな」 「え ? はい。僕は構いません。  僕の祖父の名前はブライアン · ウォルターと言います」  ブライアン……。どっかで……。 「ブライアン !? あのブライアン !? 」  そうか。薔薇の庭園に初代飛ばされたエクソシストはブライアンって奴だったはずだ。その後がクミコ。 「ユーマは知っていたのですか ? 」  相変わらず正しそうな微妙な日本語だが、ウォルターも不思議そうにしている。 「あー……えっと……」  俺が言い淀んでいると、セルが代わりに説明を始める。 「そもそも俺のBOOKを観せるキッカケになったのが、そのバチカンで死んだ俺の助手の二人の話でな。  どうも、クロツキのどこかに今も霊体が幽閉されてるらしいんだ。場所は分からないが、その二人が居住する場所に、睡眠中飛ばされるんだってユーマが言い出してさ」 「そこに来たのは俺だけじゃないらしいんだ。ブライアンともう一人、BLACK MOONの元社員が飛ばされてた。ブライアンってあんたの爺さんなのか ! 」  ……偶然なんかじゃないって、こういう事かよ。 「それは……僕は聞いたことがあります。それは薔薇の咲いた場所ですか ? 」 「知ってんの !? 」 「祖父から、そういう事もあるもんだと、臨終間際に……初めて僕は知りました。  でも、セルシアには言えませんでした。祖父はその二人がどうなってしまうのか最後まで気掛かりにしていました」 「でもセルは寿命無いんだし、伝えるだけでもどうにか出来たんじゃないの ? 」  すると、どうにもセルが気まずそうに笑う。 「いや〜……俺、ブライアンとは喧嘩別れしたままだったし。  悪魔祓いした、その数日後だよな ? 亡くなったの」 「はい。あの時、祖父は一体の悪魔を請け負いました。思った以上に強い抵抗でした。そして六日後に、負けてしまいました……。その時、病床で夢を見ていたそうです」 「六日? もっと長い期間じゃないか?」 「クロツキの時間経過は人間界と違うし、ましてその不審な空間じゃ確かなことは言えないさ」 「そんなもんかな……」  でもこれで揃った。現存する奴で関係してる奴は、全員把握出来た。ブライアンは悪魔祓いに関わって死んだ。その孫がこのウォルターだ。  クミコは寿吉さんの母親で東京時代のBLACK MOONのメンバーだった。 「リタさん。ユーマが選ばれた理由ってなんなのでしょう ? だって、普通なら当事者のセルが見ればいい夢だし、トーカだっているわ」  つぐみんが俺の聞きたいことを整理してくれた。  リタは俺をジッと見詰めて来る。なんだか目が逸らせない。怖い。この人は俺のどこまでを、どんな風に視ているんだろう。 「……正確には分かりゃしないけど。  キリスト教より先の古宗教ってのがある。ソレの力は強大だからね。そこに目を付けられたのかもしれないねぇ。  セルシアはクロツキのヴァンパイアだし、トーカはスルガトと契約している。そんじょそこらの信仰者にどうこうできない程、複雑な呪いなんだろうさ。  でもいにしえの古神の力ならあるいは……そう考えたのかもしれないが……。  あたしの見る限りじゃ、ユウマ……今のあんたじゃ力不足だ。まず肝心な信仰心、これが無い」  それは、ミスラにも言われた言葉だ。だからTheENDを使いこなせないんだと。 「宗教って物をもっと自分なりに感じて知る事だね。  世間一般で知られている宗教団体や新興宗教のイメージでは無く、自分がどう思うかだ。肌に合わないと思うなら、今、交信ができる一部の使いが居るだろ ? そいつとも関わりを持たない方がいい。信じれると思ったら止めはしないけどねぇ」  ゾロアスター教に……縛られる必要は無い……ってことか ? 「でも、それじゃ薔薇園の二人を救えないのかと思って……」 「今まで信仰なんか無くてもTheENDとやらは使えてたんなら、そうそう無くなる能力じゃないんだろうさぁ。  興味の無いものを無理に信仰するのは、あたしゃおかしいと思うけど、どうだい ? 」  それは……俺も心のどこかで引っかかっていた事だ。多分。言葉に出されるまで自覚はなかったけど。TheENDの力を磨きたいが為に、ただ流されて受け入れていた。両親が関係あるからって自分に言い聞かせて。 「あたしがオカルトじゃなくて医学で商売をやる理由はねぇ、人を救う事に宗教や人種の壁は無いからだぁ」  無宗教。宗教の自由。  俺が戦うのはただアカツキで逃げ回ったり、少しの小遣い稼ぎ程度の事だった。元々、俺は信心深い方じゃないし、人助けのために命賭けるなんて柄じゃない。  だが、今の俺はどうだ ? 十代の時はそんなもんって割り切ってたけど、仙台に来てたった数年。数年で俺の本質が変わるわけねぇ。  変わったとしたら、BLACK MOONの出会いは大きかったと思う。けれど、自分の無宗教を捻じ曲げられる筋合いは無い。現に大福もつぐみんも仏教徒のままだし、みかんもあれだけ強力なRESETの能力と馬鹿高いコミュ力のくせして、あいつも家柄は仏教徒だったはず。  セルの人生と俺の人生は違う。  双子は俺と直接的な知り合いじゃねぇ。  けれど、乗り掛かった船……既に乗っちまった船から降りる気もねぇ。ケリを付けるんだ。それだけだ。 「これから帰って、またBOOKを観に行くのかい ? 」 「あ、はい。その予定です」 「他人の過去と言えど、メンタル的に重いだろ〜 ? ここに来た時あんた達、重りみたいなモサ苦しい念を纏ってたよ。  祓ったけど、少しスッキリしたかい ? 」 「え…… ? 」  俺とつぐみんは腑に落ちない仕草はしたけど、リタの言ってることは何となく分かる。 「言われてみれば……この部屋って落ち着くわよね……。不思議」 「……セルは分かってて俺たちを連れてきたのか ? 」  だがセルは額をポリポリと掻きながら苦い顔をする。さっきから、なにかここに来たのを後悔してるように見える。 「いや。ここに来るの、ヴァンパイアとしては居心地悪いんだ、お前らと逆で。ジョルもだろ」 「何故ワカッタ……。落ち着かないンダ」  まさかの悪魔系厳禁エリア ? こいつ神父なのかヴァンパイアなのか、はっきりしたなオイ。 「でも、なにか暗示みたいに、定期的に来る口実が出来たり急用が出来たりするんだよなぁ。今日だって地図をウォルターに渡しただけで済むじゃんって後から思ったんだけど、何故か店を出る時には思い付かないんだよ」  店にいた時は意気揚々と出てきたのに ? 「それって毎回 ? 」 「そうそう」  それって……リタの方が呼んでるんじゃ…… ? 「会えて良かったわ〜。なにかあったらまた来てねぇ。  ウォルター、あなたもよ」 「僕はそれを光栄に思います」  全員が炬燵を離れる。  玄関へ向かう最後尾の俺に、リタは小声で呼び止めてきた。 (一度、ご実家に帰りなさい。ご実家から離れてみて気付いた事があるように、BLACK MOONを離れてみると見えてくることがあるわよぉ) (……はい。ありがとうございます)  オカルトで医者をやる者。この人は霊気が温かい。  そう言えば、神村署長とは同じオカルトを仕事に使う者でも、この人は真逆だ。あの人の霊気はパリッとした印象だった。  リタはなにか別の……慈愛深いなにかを感じる。 (やめて〜。そんなに視られたら、記憶を視られちゃうじゃないかぁ〜ん) (あ……そうでした。すみません)  無断霊視は覗きと同じ、だったな。BLACK MOONの鉄の掟だ。  俺たちは再びエロいパネルの階段を降り、路上に出る。 「僕もそろそろ帰るところです」  ウォルターが俺に手を差し伸べて来た。 「祖父の最後の気掛かりを、貴方が鍵を持っています。僕はそれにとても期待します」 「……はい。任せてください ! 」 「では……」  全員でウォルターの後ろ姿を見守る。 「あいつ、駅の方向分かんのか ? 」 「立場上、一人で来訪しない言い訳だったのかもな」  そうだな。セルと違って、ウォルターはガッチリ聖職者って枠に入ってるタイプだ。 「それにしても……残念 ! セル、あなたってただリタさんに逢いに来てただけなのね。やましい事してた方がらしかったのに。  でも、疑い晴れて良かったのかしら ? 」  つぐみんが笑いながらセルに言う。 「なんで残念なんだよ……。  でも、嘘はついてないさ。恋人がいるとしても、俺にとって周囲が高齢なのは種族として普通だから。  クロツキに行ったらここにいる全員、赤子みたいなもんさ。俺も含めてね。あの調子で撫でまわされるからたまったもんじゃないよ」  急に流暢に語り出したぞ。  つぐみんはもう明後日の方向を向いて、外した眼鏡を磨いている。女性って、どうしてこう……こういう時、敵に見えるんだろうな。 「ふーん。確かにね。  あぁ、でも。ジョル君は誰に夜遊び教わったの ? 」 「セルだヨ !! 」 「「……ふーん……」」  セルはそっと俺の背に隠れると、冷や汗なのか袖で顔中を擦りまくる。 (ユーマ、助けて。男として助けて)  いや。無理だろ。ってか、つぐみん怖ぇよ。 (もう神父やめて、ヴァンパイアとしてやってったら ? 百合子先生みたいに) (エクソシスト取ったら俺に何が残るんだよ) (ペーパードクター?) 「ふふ。ジョル君〜、いつもどこのお店に行ってるの ? 可愛い子いっぱい ? 」 「いっぱい ! でもつぐみんくらいの子はいないンダ ! 眼鏡の子はいるケド。俺、つぐみん、一番可愛い ! 」 (このタラシ鶏 ! お前が好きなのは『肉付きのいい女』ってはっきり言え ! そしてビンタ喰らえ)  もう、悪いのはお前だよセル……。せめてクロツキで遊んでこいよ。 「完全にアンタの負けだよ」 「負けじゃないモン。ちょっと……気分転換……」 「分かった。あんた牧師になれ。せめて結婚出来んだろ ? 」 「誰と ? 」  知るかぁっ !!!!  セルは俺の後ろで項垂れて歩く。一方、俺たちの数メートル先ではつぐみんによる、ジョルへのニコニコ誘導尋問が開催されている。 「ちなみに……あんたが熟女好きってのはほんと ? 」 「…………………(違います)」  舌の根も乾かぬうちに ! さっきの講釈なんだったんだよ !! 「ま、つぐみんが言う通り、あんたっぽいかもな」 「祓魔は現役だし、まだまだお前に教えることも多いから、そこだけは安心してくれ」 「おー。頼りにしてるよ神父さま」  それにしてもリタ……不思議な人だったな。雰囲気はボゴ屋のサンディの方が似てる。そして神村署長とは、やってることは似てる。  でも、それぞれオカルトを軸にして生きる、考えが全員違う。  当然だ。価値観が皆それぞれ違うのだから。  俺は……どうなんだ ?  俺は今、オカルト業の中で、一体どこに立ってて、どこを目指しているんだ ?
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