兄貴が色んな許可を俺に求めてくる

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兄貴が色んな許可を俺に求めてくる

「マグバイトレは行ったぜ。意地っ張り」 俺が洞窟に戻ると呆れた事に兄貴はまだ資料を漁っていた。 「何しているんだ、怪我人」 そう言って、ランプに照らされた兄貴の元に向かう。有難い事にマグバイトレは、旅をするための物資をいくつか運び込んでくれていた。 「ダニー、あんまり煩くしないでくれ。資料は全ては運べない。今ここで必要な事を覚えていかねばならないんだ」 長身の身体を折りたたむようにして、兄貴は紙に書かれた文字を追いかけていく。包帯には血が滲んだままだ。 何て言うか、身体によくないよな。こういう事は。 「えい」 俺は包帯姿が痛々しい脇腹を指先で突つく。 「ぐうっ」 兄貴が途端に悶絶して、地面に身体を縮めるように倒れる。 「もうマグバイトレはいないんだ。超人の振りはやめたらどうだ?」 兄貴に涙目で睨まれる。顔からはダラダラと脂汗が流れている。 「五月蝿い。俺が動けないと分かれば、アイツは話に乗らない。だから、少しばかり無理をしただけだ」 「はいはい、昔から兄貴はそうだよな。良くないぜ、その癖。痛いなら、痛いと言えよ。我慢は美徳じゃねえぞ」 俺は地面から起き上がられない兄貴に毛布をかける。穴の空いてない上等な毛布だ。身体が温まれば、勝手に眠くなるだろう。 「鎮痛剤を貰った。これ飲んで、寝ろ」 「まだ、やる事がある。寝れない。それに脇腹は少し掠っただけだ。問題ない」 俺はため息をつき、水を口に含む。それから鎮痛剤を放り込むと、兄貴の首についた首輪を引っ張る。 「んっ」 唇から水が溢れ出す前に、兄貴の唇をゆっくり舌で割る。ぐっと髪を引っ張って、仰け反った喉に薬を流し込む。 「飲んだか?」 至近距離で兄貴の目を覗き込む。兄貴は熱でも出ているのか、ぼんやりとした瞳で俺を見上げている。 「……ああ」 「じゃあ、寝ろ」 兄貴に被せた毛布の中に潜り込む。柔らかな毛布の感触が心地よい。 「おい」 兄貴が戸惑ったような声をあげる。 「なに?毛布は1枚しか無いんだ。仕方ないだろ」 子供の時みたいに、二人で毛布の中で息を潜める。ドキドキと動く鼓動が少しづつ落ち着いてくる。互いの呼吸音だけが、毛布の中に響く。 「……一緒に寝るつもりか?」 「そうだけど」 首を傾げる俺を見下ろして、兄貴が困った顔をする。 「……困る」 「なんで?」 俺の疑問に兄貴が、酷く言いにくそうな顔をする。 「……俺は魘されるから、きっとお前を起こしてしまう」 そう言って、気まずげに目を逸らす。俺は一瞬息を飲み、それから静かに声を吐き出す。 「どんな夢を?」 忘れていた事を思い出す。 「……父さんと母さんが殺される夢を。村の皆の腕が、俺に絡みついて離れない夢。それから、お前が居なくなる夢だ」 「それは……」 「最近俺が殺したガリエルノ人まで出てくる。夢の中で俺は許しを乞い続ける……けして許される訳が無い」 兄貴がそっと目を閉じる。まるでその瞼の裏にその夢が焼き付いているとでも言うように。とても苦しそうに。 人を殺した。苦しめた。敵も味方も。罪と理解した上で、罪を重ねた。憎悪の視線が突き刺さる。それでも兄貴は立ち続ける。そうするしかないから。 俺はそっと兄貴の瞼に手を添える。 「見るな」 毛布の中は二人の熱気であっという間に熱が篭る。俺は兄貴に覆いかぶさるようにして、その目を覆い隠す。兄貴の首輪の金具がかちゃりと音を立ててみせる。 「ダニー」 戸惑ったように兄貴は、指の隙間から薄墨の瞳で俺を見上げる。 「過去は勝手に俺たちを追いかけてくる。振り向くな、今は前を見なければ進めない。俺たちは聖域に行って、証拠を見つけ出すんだ」 「……それはお前たちが勝手に言っているだけだろ」 「ああ、だけど兄貴もそうするんだ」 兄貴が途方にくれた顔をする。まるで迷子になったみたいな顔だ。誰かが、手を引いてやらないと、勝手に道から外れてしまう。 「俺が勝手に行って、兄貴の知らないところで死んでもいいのかよ」 ーーそんなの俺が許さない。 わざとそう言って、髪を揺らして見せる。 「それは駄目だ!」 兄貴が俺の手を強く掴む。急な動作に一瞬肩が震える。だが、そんな俺の様子にまで気が回らないらしい。眉をキツく結んだ兄貴が、低い声で恫喝してくる。 「駄目に決まっている!約束を破るのか。今度は、今度こそは、俺と死ぬと決めただろう!勝手にいくなど、許さない。手を離してしまえば、今度は会える保証なんてないのだから!」 矢継ぎ早に責められる。ギリギリと手を強く握られ、腕が痛い。その痛みがまるで、兄貴の心の痛みを示しているようで、ちょっと切なくなる。 「分かっている」 俺は静かに頷く。 「分かっているよ、兄貴」 今度は置いていかないと約束したのだから。俺の表情を見た兄貴はホッとしたように、腕の力を緩める。 「……ダニー、俺を情けないと笑うか?」 「笑って欲しいなら、言えよ」 兄貴が黙って頭を振る。 「……俺はお前がいないと、まともに前も見えないんだ」 兄貴が額を俺の肩口にコツンとつける。 「暗闇の中に一人、取り残されるのはもう嫌だ」 吐き出す声はとても小さい。 俺に取り残されたあの後、兄貴は地獄で一人きりだった。 兄貴を一人ぼっちにした、後悔が胸をつく。兄貴の執着は、痛いぐらいだ。だが、それでいい。それで兄貴が俺から離れていかないなら。 「ああ、だから俺を見張っとけよ。グロウス。俺が死なないように。どうせ、お前は一人じゃ幸せになれないんだ。仕方ないから、側にいてやるよ」 そう言って、微笑む。仕方ないなあ、って。兄貴が俺にそうしたように。 例え地獄の中でも二人なら、生きていける。 「大好きだ。グロウス。俺の片割れ」 きっと、双子だった前世からずっと。正しい兄貴も歪んだ兄貴も、全部ひっくるめて、愛している。家族の愛と、他人の愛と、混ざり合って、絡み合い、それはもう解けないほどになっている。 愛している。 だから、止めないと。 愛している。 だから、殺せない。 自分の両親を殺されて、大事なものを奪われて、憎しみを抱き、使命を与えられ、苦悩した。多分、俺はもっと多くの選択肢を選べた。だが、俺が選んだ道は兄貴と共に生きるこの道だった。兄貴が憎い、けれど。 ーーそれでもアンタを愛していた。 「だから、悪夢なんて見ないで、俺を見とけよ。俺は死んだ父さんにも、母さんにもお前を渡すつもりはないぜ」 俺は誰の英雄にはなれない。けれど、真面目でアホで、クソ野郎な双子の兄を、照らす灯でいたい。 「……っ、ダニー!」 兄貴が身体を起こす。腹筋で上体を持ち上げた際に傷に触ったのか、痛そうな顔をしながらも、まるで縋り付くように俺の唇を塞ぐ。 「うんっ」 兄貴の薄い唇が、俺の口を覆う。焦れたように歯列をこじ開けて、舌が口の中に潜り込んでくる。 兄貴の舌が俺の上顎を擽り、口の中の形を確かめるように性急に奥へ奥へと進められる。まるで蛇みたいに舌の付け根を擽られてたまらず、喘ぎ声をあげる。 「ダニー、ダニー」 兄貴の指先が俺の髪をかき回し、俺が逃げ出さないようにしっかりと後頭部を固定される。息継ぎする度に漏れる息が、絡む舌が気持ちよくて堪らない。息継ぎの合間、視線が合う。 「……どうしよう、嬉しいんだ」 そう言って兄貴が凛々しい目を細める。 「正直、戸惑っている。お前が俺に気持ちを返す事などないと思っていたから。いや、お前の新しい両親を殺した俺にそんな資格など無いと考えていた」 兄貴の目が少し潤んでいる。 「いいんだろうか……俺が幸せになっても。こんな風に幸せを感じても」 なんて言うか、自分の言葉が届くのは、心が温かくなる。 「いいんだよ。神さまが許さなくても、俺が許してやる!」 俺は兄貴の頬に手を当て、そのまま勢いよく口付ける。兄貴が驚いたように目を開き、それから大人しく口づけされる。 くちゅり、くちゅりと音が耳をうつ。 舌先を絡めて、さぐりあって、唾液を交わしあう。自分ばかりが嬲られるのが癪で、俺も舌を伸ばすが、大きさが違うのか長さが足りず、ただ兄貴の舌先を擽るばかりだ。そんな俺を兄貴は愛おしそうに見ている。酸欠の所為か頭がぼんやりとしてきて、何故だか、チンコが勃ちそうにそうになり、膝を擦り合わす。 すぐ近くに兄貴の顔がある。 「……抱いてもいいか?」 薄墨の瞳を煌めかせ、静かに尋ねられる。あんまり馬鹿な事を言うから、笑ってしまう。そんな事、初めて兄貴に聞かれた。 「怪我人の癖に、無理するなよ」 「今、治った」 「そんな訳ないだろう」 胡乱な瞳で兄貴を見上げる。そんな俺を兄貴は優しい目で見つめる。 「少なくとも、今は痛みを感じない。お前のおかげだな」 それは多分、鎮痛剤の所為だ。 兄貴が俺の口を塞ぐように軽いキスを繰り返す。キスは俺の頬を鼻を首筋とどんどん下に降りてくる。兄貴の手は器用に俺の服を脱がせていく。 あっという間に俺の白い胸板があらわになる。 我慢が出来なくなったというように乳首をねっとりと舐められ、俺は堪らず首をすくめる。淡いピンク色だったそれが、あっという間に赤く色付く。時々、歯を立てられると声が漏れてしまう。 やられっぱなしは悔しいから、兄貴の上着のボタンを外して、兄貴の首筋に噛み付いてやる。ガジガジと噛み付く俺に、兄貴は熱い視線を隠すように目を伏せる。 「ダニー、お前」 「せいぜい気持ち良くしろよ、クソ兄貴」 そう言って、偉そうに首を逸らし、兄貴の首の後ろに手を回す。 「……煽るな、馬鹿」 そう言って、兄貴が俺を組み敷いた。
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