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「ぼ、僕と、付き合ってもらえないでしょうか」
彼女は、少しだけ微笑んだ。ような気がする。怖くてまともに見れやしない。久々に発せられた告白の台詞は、僕の心で反復されるわけでもなく、彼女の心に届いているのかすら怪しく、開けた青空へと羽ばたいていってしまったようだった。
間が空く。
伸ばした手がそろそろ痛み出したころ、彼女は口を開いた。
「……私は、あなたの気持ちにこたえることはできません。謝るのは無礼ってもんだから、しない。言ってくれてありがとうね」
どうして?
ふと思った疑問を、瞬きの間に払拭する。
当たり前だ。こんなやつ、好かれるわけがないじゃないか。
「いや、君が悪いってことでもないんだ。単に、違っただけ、というか」
彼女はなびく髪を抑えつつ、それでもにこっと笑う。
普段なら胸の高鳴りの絶頂でもあるその光景は、今はただつらいものになっている。
「でもね、ほんとに嬉しい。それだけは確か」
まあ、そうだろうな。
そろそろ心が落ち着き始めた。僕は、それ相応の努力をしていない。ならば、この結果を受け入れるのは当たり前の行為であろう。
誰もがみなそう言う。
「ちゃんと振ってくれて、ありがとな」
僕はつぶやく。
「じゃあね。また、GW明けに」
彼女は去っていく。
まったく。
こうして僕の片思いは、見事、砕け散った。
純粋無垢な彼女に惑わされた高校生活だった。
それから。
GWが明けたからといって、僕の心は落ち着きを取り戻せたわけではなかった。
「やっほー」
そんな僕とは裏腹に、彼女は変わらぬ姿を見せてくれる。それが彼女なりの答えのような気がして、笑顔の輝く彼女を見るなり僕は心が洗われた。
「やっほー」
どうせあと1年もない。来年の3月には卒業だ。
だとしたら。
「なあ、友那」
「ん? どしたん?」
「これからもよろしくな」
「3月までね」
「……ですよねぇ」
厳しい10か月の幕が、上がるのだった。
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